ヴァンパイヤ・ナイト8

「ヤマト!ヤマト!目ぇ開けろよ!返事しろよ!!」

太一は、涙を流しながら、ヤマトの両肩を揺すり、何度目になるか分らない呼び掛けをするが、腕の中のヤマトはぐったりとしたまま、動かなかった。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!そんな・・・」

格子を掴み、兄の様子を伺う、タケルの目からは、止め処なく涙が流れていた。

「ヤマトさん」

ヤマトの名を口にする。大輔の顔にも、悲しみが浮かんでいた。

「すまん、間に合わなくて」

遼が、いたたまれなくなり、悲しみに染まった声で謝罪の言葉を口にする。

 

「許さない」

俯いたタケルが、静かな声で言い放つ

「絶対に許さない、一乗寺賢!!」

タケルは、そう言うと、顔を挙げ、賢に向って、高速移動をし、背後に回り、首に手を回す。

「きさ・・ま」

咄嗟の事に、対応できず、スティングモンも、動けずにいた。そして、タケルは、前腕で賢の首を圧迫しながら、賢の首に牙を迫らせる。普段の優しいタケルとは、比べ物にならないほどに、今のタケルは、氷のごとき静けさを、その身に宿していた。

「気分はどう?あれだけ嫌っていた。ヴァンパイヤになるのは」

「なにぃ」

賢は、狼狽し、身を捩るが、ヴァンパイヤの血を引く、タケルの力に敵うはずもなく、タケルの牙は賢の首筋に伸びたが、

「やめろ!タケル!!」

太一の声が、タケルの暴挙に静止を促す。

 

「太一さん?」

「ヤマトは、まだ死んでなんかいない、いや、俺が絶対に死なせやしねえ」

太一の言動は、絶対に無理な事を言ってるにも関らず。その表情には、この人が言えば、本当に叶いそうな気がする、神がかった強さがあった。太一は、床に転がっていた。ヤマトの血で染まった短剣を取ると、自分の手首に宛がい、一気に引いた。

「たっ、太一さん」先輩」

タケルと大輔の声が重なり、二人して、驚愕の表情を浮かべる。いや、驚愕の表情を浮かべているのは、二人だけではなかった。遼も賢も驚愕の表情を浮かべていた。四人の見守る中、太一は、自分の手首から流れる血を、ヤマトの口に注ぎ込んだ。ヤマトの口は指が一本だけ入る程開いており、太一の手首から流れる血は、トクトクとヤマトの口の中に流れて行くが、ヤマトの体に変化は無かった。

 

(なんだ?口の中に広がる。暖かい物は?)

ヤマトの意識は深い暗闇の中にあったが、自分の口の中に、広がる物が、徐々に体の感覚を取り戻させ、干からびていた細胞の一つ一つが潤っていくような感じで、四肢に力が戻っていった。

 

クン、ックン、ドックン、ドックン、ドックン、

ヤマトの心臓が、力強い脈動を開始し、動き始めたのだった。

 

ゴクリ

ヤマトの喉が動き、太一の血を飲み込んだ。

「やま・・と」

太一は、ヤマトの名を呼び、ヤマトの顔を見ると、顔色に血の気が戻り、喉が動き、口に注がれる太一の命の雫を飲み込んでいた。

「うっ・・・んぅ」

ヤマトは、薄く目を開き、目を覚ました。

「ヤマト!」

「太一・・・ここは?」

ヤマトは、暫く呆然としていたが、太一の手首を見るなり、

「馬鹿っ、何やってんだよ!」

ヤマトは、すぐに太一の手首に舌を這わせ、太一の出血を止めようとしたが、口の中は、太一の血で染まっており、中々すぐには、止血は出来なかったが、なんとか、血を止めると

「ヤマ・・ト」

太一は、ヤマトの名を呼ぶと、ヤマトの腕の中に倒れこんだ。

「おっ、おい、太一!」

ヤマトは、腕の中の太一を見ると、息はしているが、顔は貧血気味で、血色が悪かったが、左胸に耳を当て、聴覚を開放し、ヴァンパイヤの聴覚を持って、確認してみると、体の中にも以上はなく、どうやら、貧血で倒れただけらしく、ホッと胸を撫で下ろし、牢屋の外から、こちらを見守っていた。タケルと大輔に、親指を立て、だいじょうぶなだと、伝える。

 

「くっ!」

皆の注意が、牢屋の中にいっている一瞬の隙を突いて、賢はタケルの腕の中から、脱出する。

「スティングモン、そのヴァンパイヤを・・殺せ!」

少し躊躇を見せるが、スティングモンを繰り出してこようとする。だが

「やめろ賢!」

遼が、スティングモンの前に立ちはだかる。

「遼さん、なんで?なんで!邪魔をするんですか!?」

「もうやめろ、お前も見ただろ、ヴァンパイヤも同じなんだ。人間と」

「何を馬鹿な事を、言ってるんですか!?遼さんは忘れたんですか!?ヴァンパイヤが、何をしたか!?」

冷静に言い放つ、遼に対し、賢は困惑しながらも、声を荒げる。

「ああ、忘れてなんかいないさ・・・ヴァンパイヤに殺された治の事を、忘れたわけじゃないさ、でもな、賢、治を殺されて、ヴァンパイヤを憎むお前の気持ちも分る。でも・・・それだからって、ヴァンパイヤ全部を憎むのは、間違ってる!俺は気付いた。ヴァンパイヤも人間と同じで、笑いもすれば、悲しみもするし、憎んだりもする。そして・・・誰かを愛したりもする。お前も見ただろ、あの二人を」

遼は、そう言うと、牢屋の中の、ヤマトと太一を指差した。

「・・馬鹿な!そんな筈は無い!これは何かの間違いだ!ヴァンパイヤの本質は、化け物だ!」

賢は、その場に、倒れこみ、床を叩き、現実を受け入れようとしない

 

「賢」

「だい・すけ」

賢は、名を呼ばれ、顔を上げる。

「俺・・難しい事は、良く分んねえけど、一つだけ言えるのは、俺はタケルと一緒にいたい・・・タケルが、人間じゃないような気はしてたけど、ヴァンパイヤだって、はっきりと知った今でも・・・俺はタケルと一緒にいたい」

「大輔」

賢は目を見開き、大輔を見上げる。大輔の瞳は、どこまでも真っ直ぐで、曇りが無かった。

 

「悪かったな」

目を見開き、呆然としている賢と見詰め合っているタケルと大輔に、遼が割ってはいる。

「これ」

そう言って、遼は、どこからか、取り出した。鍵を渡し、牢屋の方を顎で指す。

「あっ・・えっと・・ありがとうございます」

大輔は、なんとか、現状を理解すると、遼に頭を下げるが、タケルは、自分の兄が殺されかけた為、納得が言ってないようで、賢から目を逸らさずにいた。

「今回の事は、本当に悪かった。助けてやった事を恩に着せるつもりはねえけど、あいつの事は、俺に任せてくれないか?」

遼は、呆然として、いつの間にか、深く俯きうな垂れている賢を、親指で指しながら言う

「分りました。・・・タケルも、それでいいだろ?今回は、太一さんも、ヤマトさんも、なんとか無事だったわけだし、なっ」

大輔に言われ、まだ納得できない点もあるのだが、タケルは、条件を出す。

「今回は、遼さんに免じて、引きますけど、その代わり、彼にヴァンパイヤハンターをやめさせて下さい」

「分った。」

遼の眼を見て、遼が真剣だと察し、タケルと大輔は、牢屋の鍵を開け、

 

ヤマトは太一を抱き上げ、大輔は、タケルに抱き上げられ、

高速移動をし、ヤマトの家へと急ぎ戻った。

 

後書き・はぁ〜、ヴァンパイヤ・ナイト、予想外に長くなってしまいました。本当は、五、六話で終わる予定だったんですが、長くなってしまいましたね、私的に今読み返すと、ヤマトと太一の和解する辺りが、手抜きな感じがしてなりません、ちょっと内部告発をしてみました。ですが、次で終りです。(多分)、ここまで、お付き合いしてくださった方いたら、感想くださいね(切実)さて、この連載が終わりましたら、ちょっと、長編と、今度連載を開始しようと考えている物の連載に力を入れようと思います。ヴァンパイヤ・ブラッド、待ってくださってる方いるんでしょうか?もう少しお待ち下さい、まあ、楽しみにしてくださってる方がいる場合は、そちらを優先的に書き上げたいと思いますので、メールもしくは、掲示板への感想を下さい、私は、読者様至上主義ですので、読者様の声を出来る限り、聞き入れていくつもりですので、では、長々と後書きを書いてしまいましたね、ここらで失礼いたします。