ヴァンパイヤ・ナイト7
「大輔君!早く僕から離れて!」
「離れたら、お前がやられるだろ!」
大輔は、今、タケルを団地の壁に背中で押さえ、そして、タケルの前に自分を置き、キメラモンはタケルに手を出せずにいた。
「くそぉ!こうなったら、しょうがない」
「おっおい!」
「掴まって!」
そう言うと、タケルは、大輔を抱き上げると、一気に高速移動を開始した。大輔は振り落とされないように、タケルの首に手を回す。大輔の突然の行為にタケルは、頬を赤く染めるが、高速移動の速度を落とさなかった。
その頃、ヤマトと太一は
「太一、だいじょうぶか?」
ヤマトは、自分の隣で壁に寄りかかる、太一に尋ねる。
「ああ、もう、痛みも引いたよ」
太一は、お腹を擦りながら言う
ヤマトと太一は、東京の郊外にある。古い屋敷の地下牢に閉じ込められた。この屋敷は、ヴァンパイヤ・ハンター協会の持ち物らしく、ヴァンパイヤ・ハンターの証の、首飾りが屋敷の鍵になっており、賢が屋敷に入ると、スティングモンに、ヤマトと太一を拘束させたまま、地下牢まで連れてくると、ヤマトと太一は、牢屋に放り込まれ、賢はスティングモンを引き連れ、準備があると言って、去っていった。
ヤマトと太一は、肩をくっつけて座っている。
「はぁ〜、しかし、あいつは何をする気なんだぁ?」
「さあな、それより、太一は、あいつの事知ってるのか?大輔は、あいつの事、知ってる風だったぞ、確か、一乗寺賢って言ったけ」
ヤマトは、傍らの太一に目をやりながら言う
「あいつは、田町FCのエースだよ、小五ながら、司令塔として、すごい活躍をしていんだよ、周りのメンバーを生かすのが、上手くて、小学生のチームなのに、凄いチームワークの良いチームだったぜ、一度だけ、お台場のチームとの練習試合を見た事があるんだよ、その時、お台場のチームが、相手のチームワークの良いプレイに、ぼろ糞にやられてから、大輔がやたら、ライバル視してるからな、あの時見る限り、こんな事する奴に見えなかったんだよ、チームのみんなとも、上手く言ってるようだったし、あいつ自身凄い優しそうな奴に見えたし、なんでかなぁ〜」
「まあ、人間なんて、色々な面を持ってるもんだからな」
ヤマトは、太一の話を聞き終わると、天井を見上げ言う
「そっか」
太一は、ヤマトに素っ気無く答えると、黙り込んでしまった、
ヤマトは、天井を見上げながら、状況が状況なだけに、黙り込み
暫く、沈黙が訪れ
ヤマトは、ふと、視線を太一に戻すと、太一は俯いて、酷く沈んだ表情を浮かべていた。
「太一?どうした?」
「いや、何でもねえよ」
「・・・・・・・・ごめんな、ヤマト」
少しの沈黙の後、太一がふと、口を開く
「何がだ?・・太一?」
ヤマトは、太一の言わんとする事が分からなかった。
「・・頼むから・・・人間を嫌いにならないでくれ・・中には酷い事する奴もいるけど・・・頼むから・・・人間全部を嫌いにならないでくれ!頼むから・・今まで・・・人間がお前にした酷い事、全部・・俺が謝るから・・・頼むから、人間を嫌いにならないでくれ!」
太一の表情には、悲壮感が濃く漂い、涙が流れていた。
「太一」
ヤマトは、そっと、太一の肩を抱き、自分に抱き寄せた。太一は肩に掛かった、手を掴み、肩を震わせて涙を流す。
ヤマトは、そっと、太一を自分の胸の中に引き込み、太一の顔を自分の胸に着ける。
「太一、だいじょうぶだから、お前みたいな奴がいるから、だいじょうぶ、俺は人間を嫌いになったりしないよ」
ヤマトは、太一の髪の毛に口を近づけ、そっと言う
それから、太一はヤマトの胸で泣いていたが、
突如、地下牢に来訪者の訪れを知らす足音が、太一とヤマトに緊張を走らせる。
「随分と仲が良いようだね」
ヤマトと太一の二人の様子を見て、嘲笑するように吐き捨てる賢。
「まあ、それも君がヴァンパイヤの正体を知れば変わると思うけどね」
そういって賢が牢屋の中に細長い棒状の何かを投げ入れた。
それは鞘に収まってはいるが、長さが40cm程度の短剣だった。太一が自分の足元に落ちている短剣を見て
「何のつもりだ?」
太一は一歩前に出ると、冷ややかな眼差しで賢を見据えながら問いかける。
「僕はそこのヴァンパイヤを殺す・・という事はしない」
賢からの意外な提案に太一は目を見開くが
「そこのヴァンパイヤは君の手で殺して貰おうと思ってね。その為にその銀の短剣を渡しておくよ」
その後に続いた予想外の答えに太一は驚愕したが
「へっ・・何を馬鹿な事を言ってるんだよっ」
「その強がりがいつまで持つか、見物だね」
言うや否や、賢のだらりと下げられていた手が自身の肩の高さまで跳ね上がったと同時に、ヒュンっという風切り音と共に光る何かが太一の脇を何かがすり抜けてで飛んで行った。
「ぐあっ」
ヤマトの悲鳴が上がり、くの字に体を折り曲げてうずくまる。
「ヤ!ヤマト!」
慌てて駆け寄ると、ヤマトが自分の腹部から10cm程の短いナイフを引き抜いた所だった。先ほど太一の脇をすり抜けたのは賢が投げつけたナイフだった。
「ど、どういうつもりだ!?お前はヤマトを殺さないんじゃなかったのか?」
「ああ、殺さないさ・・・それにこれ位の事でヴァンパイヤが死ぬ訳無いだろう」
激高する太一を冷ややかな声でいなす賢。
腹部を押さえ苦痛に顔を歪めるヤマトを見て、賢の唇の端が上がる。
ヤマトのそばに片膝をついてしゃがみこむ太一も異変に気付く、聞いている話ではヴァンパイヤは人とは比べ物にならない回復力や力を持っている筈。だが明らかにヤマトの出血の量は多かった。
「さあ・・・それだけ血を失ったヴァンパイヤはどうなるかな?ハハハハハッ。それに今投げたナイフは銀製のナイフでね。ヴァンパイヤとはいえ、傷が簡単に回復したりしないよ」
ハっとして賢を振り返る太一。賢の顔には目元を隠すバイザーに覆われているが、むき出しの口元には歪んだ笑みが張り付いていた。
「た・・・太一・・・」
苦しそうに訴えるヤマトに視線を賢からヤマトに戻すと、太一に青い目が真っ直ぐに向けられていた。
「お・・俺を・・・こ、殺して・・・くれ・・・・・じゃ、じゃあいと・・・おれが・・・」
「な、何言ってるんだよ!?ヤマト・・・これ位の傷じゃ死なないんだろっ!」
苦しそうに顔を歪めるヤマトの両肩に手を置いて訴えかける太一だが、すぐにヤマトは顔を俯けて静かになった。
「ううううっ」
ヤマトの口から餓えた獣の唸り声のような声が発せられると、俯いていた顔が持ち上がる。
そこで太一が見たものは、青かった目が今度は血の色に染まり、唇の両端を大きく持ち上げて、口元から牙が伸びて、変貌したヤマトだった。
両肩に添えられていた太一の右手首を掴み、完全に理性を失ったヤマトだった。
あとがき・はい、加筆した作品です。旧作品のチェックをしていたら7話だけ途中で話数が終わってない事に気付いた為、加筆させて貰いました。