ヴァンパイヤ・ナイト4

ヤマトは、襲撃者の正体を暴く為、帽子とマスクを剥いだ。

そして、帽子とマスクの下から出てきたのは、癖の強い髪の毛、大きな鳶色の瞳、だが、その鳶色の瞳には、ヤマトに対する憎しみしか宿していた無かった。

「た・・いち」

ヤマトは、なぜ彼が、この様な事をするか分からずに、呆然としていた。

なぜ一人で自分を襲撃するなんて事を、それならば、みんなに自分の事を話し、もっと大勢で襲えばいいのに、なぜこんな危険を冒してまで、一人で襲い掛かってきたか、分からずに困惑していた。

 

「離せ!離せーー!!」

太一は、ヤマトの下で暴れる。

「あ・・・悪い」

ヤマトは、とりあえず、太一の背中に乗せていた。膝をどけ、太一を解放した。

太一は、解放されると、すぐに、ヤマトから距離を取り、ヤマトに向き直った。

依然として太一の瞳には、ヤマトに対する恐怖と憎しみしか宿っておらず、

仲が良かった頃を思い出し、ヤマトはふと悲しくなった。

「はあ、はあ。まさか、はあ、吸血鬼なんかが・・実在してたなんてなあ!!」

太一は恐怖で、冷や汗をたらし、恐怖の為か、息を切らせながら、恐怖を振り払うかのように、大声で叫んだ。

「!!!」

 

この瞬間、ヤマトには、全ての謎が解けた。おそらく、太一は、あの後、自分が落とした本を拾い、何らかの方法で、本を解読し、

読んだのだろう、内容は、全ておとぎ話の様に書かれてるが、ヤマトの変貌した姿を見て、なおかつ、変貌したヤマトに襲われた太一には、おそらく、書いてある内容全てを信じただろう、だから、太一はヤマトを、殺そうと考えたのだろう、殺なければ殺れると思い、ヤマトを殺しに来たのだろ

 

「本・・読んだのか?」

ヤマトは、瞳の奥に悲しみを隠し、無表情に言う

「ああ・読んだよ!そのおかげで、お前が化け物だって分かったしな!!」

「そうか・分かった」

ヤマトは少し、悲しそうな表情を浮かべ、太一と向かい合うが、ヤマトには、もう全てが、どうでも良くなった。自分の存在を、今まで受け入れてくれる人はいなかった。だから、隠してきたが、太一の存在が、自分の正体を隠し通すのは、不可能だと教えてくれ、そして、仲の良かった親友と思っていた。太一にも、化け物と呼ばれ、もうこの世界に自分の居場所は無く、自分は生きていてはいけない存在だと思えた。

 

ヤマトは、高速移動をし、太一から先程取り上げたナイフが、突き刺さっている所まで一瞬で移動した。

太一は、目の前から一瞬で消えたヤマトを探す為、首を振り辺りを見渡し、

「ヤマト・・何してんだよ!?」

ヤマトの姿を確認して、驚愕の表情を浮かべた。

ヤマトはナイフを両手で持ち、喉元に近づけた。

「怖い思いさせてごめんな、もうその恐怖の源はいなくなるから、安心しろよ」

ヤマトは、そう言うと、太一に笑いかけた。その笑顔は、もうどんな顔をしていいか分からなくて、

笑うしかないという時に浮かべる。悲しい笑顔だった。

「ヤマトーーー!」

太一は、ヤマトに向って、駆けた。

太一は、ナイフがヤマトの喉にナイフが突き刺さる寸前に、ヤマトの両手を掴む事が出来た。

 

「待てよ!!」

「俺を殺そうとしたのに・・なんで心配なんかするんだよ?」

ヤマトの顔には、もう投げ槍な、うんざりと言った感じの表情しか浮かんでいなかった。

「やっぱ、嫌なんだよ!」

太一は、涙を流しながら叫んだ。

「えっ?」

「やっぱり、嫌なんだよ、ヤマトがいなくなるなんて!やっぱ、嫌なんだ!」

太一はヤマトの両手を掴み、ヤマトの目を見て言う、

「ありがとう、太一」

ヤマトは、太一に微笑みかける。その微笑みは心の底から笑っている微笑だった。

「でも、ごめんな、もうこの世界に、俺の居場所は無いんだよ」

ヤマトは、そう言って、太一を突き飛ばすと、ナイフを喉元に突き刺そうとする。

ブクシュ

「ぐあっ」

刃が肉に突き刺さる音と、痛みに染まった声が聞こえた。

 

太一はヤマトに突き飛ばされたが、すぐに跳ね起き、ヤマトに脇から抱き着くようにして、ナイフとヤマトの喉元の間に、自分の右手の二の腕を差し入れて、ヤマトの喉にナイフが突き刺さるのを防いだのだ。だが、ナイフとヤマトの喉元の間に、差し入れた自分の二の腕には、深々とナイフが刺さった。

 

「太一?・・・なんで、なんで、そんな馬鹿な事したんだよ!?」

ヤマトは、右手を左手で押さえ、両膝を地面に着け、痛みを堪えている太一に向って言う

「ぐっ・・・だから・・・待ってって・・・言っただろ」

太一は、苦痛に歪む顔を上げ言う

「おい!太一、だいじょぶか?傷見せろ」

ヤマトは、太一の前に跪き、両肩に手を置き、太一の左手を傷口からどける。

「ぐあっ」

ヤマトが傷口を見ようとして、誤って傷口に触れてしまったらしい

「あっ!悪い、すぐに治してやる。待ってろ」

ヤマトは、そう言うと、太一の傷口に唇を近づけ、傷口にキスを落としたように見えるが、ヤマトは傷口を舌で舐めたのだ。

何度か舐めたら

「きゃはは、くすぐったい、くすぐったい、やめろぉー、くすぐったいって」

太一が突然笑い始めた。ヤマトは唇を傷口から離した。すると、太一の腕から、ナイフが突き刺さった後が、綺麗に消えていた。本来は何針も縫わなきゃ治らないような、傷口が傷跡も残さずに綺麗に治っていた。

 

「ヤマト・・・何したんだよ?」

「悪い、気持ち悪かったかもしれないけど・・その・・傷口を舐めた」

戸惑う太一に向って、ヤマトは申し訳なさそうに言う、

「俺・・ヴァンパイヤだろ・・・ヴァンパイヤの唾液には、傷を癒す効果があるんだ。だから・・その・・気持ち悪い思いしたと思うけど・・・傷口を舐めた・・あっ!心配するな、舐められた位じゃ、ヴァンパイヤにはならないから」

ヤマトは、申し訳なさそうに、自分が何をしたかを説明した。

「なんだ。吸血鬼って、結構便利じゃん、ありがとなヤマト、助けてくれて」

太一は、ヤマトに笑顔を浮かべる。そして、初めて自分のヴァンパイヤとしての忌わしい能力を、

便利だと言われ事がヤマトには、心地よかった。

「いや・・・本当にごめん・・怪我させて」

「ヤマトー!そんなに気にすんなよ、そもそも、先に手を出したのは、俺なんだから」

「いや・・だけど・・俺は」

「だぁ〜、お前が吸血鬼だろうと、なんだろうと、ヤマトはヤマトだろ!!」

太一は、曖昧な事ばかり言っているヤマトに、調子を狂わされつつも、

ヤマトの存在を認めているんだという一言を叫んだ。

「ありがとう・・・太一」

ヤマトの目からは、自然と涙が流れ出ていた。

「おっ!おい、ヤマト、なっ、何泣いてんだよ!?」

「あっ・・悪い」

太一は、突然ヤマトが、涙を流した事に困惑する。

それから、太一とヤマトは、二人で、笑いあった。何が面白いかは分からないが、とにかく可笑しかったので、笑った。

太一とヤマトの関係は、自然と以前の仲が良かった。親友と呼べる時に戻っていた。

 

「ヤマト」「なんだよ?」

不意に真剣な表情で、太一に呼ばれ、ヤマトは太一を見返す。

「例え、世界中の人間がお前を殺そうとしても・・・・俺だけは・・・お前の傍にいてやるよ」

太一は、顔を赤く染めて俯き、ヤマトに自分の気持ちを伝えた。

「太一!」

ヤマトは、太一の名を呼ぶと、強く強く抱き締めた。この瞬間、お互いの気持ちは通じ合った。

太一が好きだと

ヤマトが好きだと

だが、この思いが、更なる、事件を呼ぶとは知らずに・・・

 

「ヤマト」「なんだ?太一」

「今日、泊まり行っていいか?」

「えっ!いや、でも」

太一の突然の提案にヤマトは、戸惑ったが、父親は今日、局に泊まりだし、母親は明日にならないと帰ってこない、と頭のどこかで考えてはいたが、やはり、この前、太一に襲い掛かった事が頭をよぎる。

「ヤマト・・もしかして、俺がヤマトの事怖がってると思ってるだろ」

「いや・でもな、太一」

「俺は、お前の事なんか、全然怖くなんか無いんだからな!」

太一はそういうと、ヤマトの唇に己の唇を重ねた。

ヤマトは思わず赤面し、太一の頬にも赤みがさしていた。

「とっ!とにかく、今日、俺は泊まりに行くからな!」

太一はそう言うと、ヤマトから、逃げるように裏門から駆け出す。