ヴァンパイヤナイト10
あの出来事から、数日が過ぎた。
ヤマト、太一、タケル、大輔、四人は、平穏な日々に戻ろうとしたが、そうは行かなかった。
「今日も、都内での怪獣騒ぎがありました。」
ニュースキャスターが、今日のニュースを読み上げ、怪獣が暴れ、壊したであろう、ビルや道路を移し、二体の怪獣が暴れている映像を写している。
「なあ、これって、一乗寺がつれてた奴に似てねえか?」
「う〜ん、似てるといえば似てるけど、でも、大輔君、これ、暴れてるって言うより、戦ってるみたいだよね、この二体」
大輔は現在、タケルの家に遊びに着ていた。そして、テレビから、流れるニュースの映像を見て、タケルに思ったままの事を言い、タケルもそれに答えていた。
それから、数日、怪獣騒ぎも収まった頃
「お前ら、今すぐに、この国から出ろ」
遼が賢をつれて、突然、ヤマトの家に訪ねてきて、開口一番にそう言う
「はあ、何言ってんだ?」
遼の向かい側のソファに座っているのはヤマトと太一、食卓テーブルの方には、タケルと大輔が腰掛、ヤマト、太一、遼、賢のやり取りを一緒になって聞いていた。
そして、太一は、遼の言った事が理解できずに、混乱する。
「今、この国はヤバイ状態になっている」
「そこから、先は、僕が説明します」
遼の隣にいた賢が言葉を引き継ぐ
「ついこの前、ヴァンパイヤハンター協会が、大きく二つに割れてしまったんです。一つは、ヴァンパイヤをこれまで通り撲滅しようとする勢力。もう一つは、人間に害なすヴァンパイヤのみを狩り、基本的にヴァンパイヤと争わないで、和平を望む勢力、この二つの内、前者が大きな権力を協会内で振るっていたんですが、人数的には、拮抗していた為、今までは、微妙なバランスを保ち、大きな争いも無かったんですが、つい最近になり、後者のヴァンパイヤとの和平を望む勢力を、前者の勢力が弾圧し始めたのです。それにより、あまり争いを望まない、後者の勢力も応戦せざるをえなくなってしまったんです。それにより、今までは、二つの勢力が混同していた地域や国で争いが起こり、この国は、ヴァンパイヤを撲滅しようとしている勢力が、支配する事になりました」
「なんだって!それじゃあ、最近の怪獣騒ぎってのは、それが原因か?もしかして」
「はい、各地で、ヴァンパイヤハンター同士の争いがついこないだまで、頻繁に起こってましたから」
太一が、驚愕に染まった声を上げた。そして、それは、その場にいた。ヤマト、タケル、大輔、も同じだったらしく、皆が皆、顔に驚きの表情を浮かべている。
「だから、悪い事は言わねえ、この国を出ねえと大変な事になるぜ、逃亡先はこっちで用意しとくから、逃げてくれ」
遼が、呆然としている余人を見渡し言う
「おい、ちょっと待てよ、どうしてお前が、俺達の逃亡先を用意できるんだよ?」
ヤマトが、遼と賢に対し、疑惑の目を向ける。やはり、数日前にされた事を、まだ忘れてないようだった。殺されかけ、更に恋人まで危険な目に合わされた本人としては、それは当然と言えた。
ヤマトの視線を受け、賢は俯くと、小さな声で、ごめんなさいと囁いた、その言葉は遼以外の人間には、聞こえなかったが、遼には、聞こえていた。遼は、自分の右隣に座る賢の肩を軽く右手で叩き、ヤマトと太一に向き直ると、
「それについても説明しよう、俺達を、今すぐ信じろって言っても無理な話しだしな、まず、さっき賢が言った。ヴァンパイアを撲滅しようと望む勢力と、ヴァンパイヤの共存を望む勢力、この二つの勢力の内、俺は、最初は、ヴァンパイアの撲滅を望む勢力に所属していた。俺と賢にとって、凄く大事な人をヴァンパイヤに殺されたからな、俺は、その復讐の為に、ヴァンパイヤハンターになった。だけど、ある時、気付いたんだ。ヴァンパイヤも俺達人間と同じだった事に、そりゃあ中には、人間と同じで、人を殺したり、する奴もいるけど、全部が全部そうじゃないって気付いたのさ、だから、俺は今、ヴァンパイヤとの共存を望む勢力の、支持の元で動いてる。それだけだ。だから、お前らが殺されるのを黙って見てられないってだけだ。少しは信じてくれたか?」
ヤマト、太一、タケル、大輔、四人は黙って遼の話を聞き、話を聞き終えると、少しの間、場に沈黙が訪れたが、その沈黙はタケルの手によって破られた。
「一つ聞いていいですか?」
「答えられる範囲でいいなら、答えるぜ」
「さっき言ってた・遼さんと、一乗寺君の大事な人って、誰ですか?それは、もしかして、この前言っていた。治って人ですか?」
タケルの問い掛けに、今度は遼と賢が、沈黙した。
「賢、だいじょぶか?言ってもいいか?」
少しして、遼が口を開き、隣の賢の様子を伺いながら口を開く
「・・・はい」
遼に言われ、賢は辛そうな表情を浮かべるが、なんとか首を縦に振り、俯いてしまう
「俺達の大事に人ってのは・・・一乗寺治・・・賢の兄貴だ」
「えっ!」
タケルは驚き声を上げた後、すぐにしまったと、後悔し、部屋は気まずい空気に包まれたが
「気にすんな!治の事を忘れたわけじゃないけど、俺と賢も、治の死を受け入れ、今は、乗り越えようと思ってる。・・・今まで俺たちがハントした、ヴァンパイヤの中には、罪も無いヴァンパイヤもいたと思う、だから、その罪を償う為に、俺は・・俺達は、今、こうして、一人でも多くのヴァンパイヤを救おうと思ってる。だから、お前らを見捨てる事は出来ない、嫌だっつっても連れてくぜ」
遼の闘気が僅かに開放され、ヤマトとタケルも、臨戦態勢に入る。
「おっと、そう構えるな、何も今すぐ連れてくって訳じゃねえ、色々と身辺整理もあると思う、三日、短いと思うけど、三日間の間に気持ちや、身の回りの事を、色々と整理しといてくれ、えっと、とりあえず、俺達が、連れてくのは、お前とお前でいんだよな」
遼は、ヤマトとタケルを順番に指差すが
「いや、俺も行く」
「太一先輩、俺も行きますよ」
太一と大輔が、遼の前に進み出る。
「え〜!ちょっと待て、幾らなんでも、それは不味い、普通の人間を連れて行く訳にはいかねえよ!」
「なんだ、普通の人間じゃなかったら良いんだろ?」
驚いている遼を尻目に、
「「だったら」」
太一と大輔は、お互いの恋人に向き直る。
「ちょっ・・太一?」
「・・・大輔君?」
ヤマトとタケルは、二人揃って、冷や汗を顔からタラリと流す。
「本当にいいんだな、太一」
「なんども言わせんなよ、早くしろ」
ヤマトは、太一にせかされ、目の前に立っている太一を、後ろから抱き締めると、太一の首筋に牙を突き立てた。ヤマトは、太一の血と自分の血を半分づつ入れ替えた。その瞬間、太一は体を強張らせ、ビクンビクンと体を跳ねさせたが、太一の血とヤマトの血を無事入れ替えた。
最初、ヤマトは、太一が何を言おうと、頑として拒んでいたが、太一が俺を連れてかないなら、嫌いになってやると大声で言われてしまい、ヤマトは結局、太一に押し切られる形で、太一の体にヴァンパイヤの血を流し込んだ。そして、ヤマト、太一、タケル、大輔、の四人は今まで通りの生活を三日間続けた。その間、クラスメイトや、部活の仲間には、いつも以上にやさしく出来た。そして、とうとう約束の三日目、その日の夜中に、ある場所を、遼と賢に指定され、その場所に四人で行かなくてはならず、荷物は衣類だけにしとけ、と言われたので、太一は、お気に入りの冬服と夏服を厳選し、サッカーで使っていた。ドラムバックの中に入れ、部屋を出て、両親の寝ている寝室の前に行き、扉越しに別れの言葉を言い、玄関に向き直るが
玄関に向う途中の廊下にある扉が開き、中から
「お兄ちゃん、どうしたの?こんな時間に」
「ヒカリ!」
一番見つかりたくない相手に見つかってしまい、しまったと思い、なんとか誤魔化そうとするが、この妹は、何より勘が優れており、神掛かっている時があったりするので、太一は戸惑っていると
「お兄ちゃん、どっか行ちゃうんでしょ」
「なっ、何言ってんだよ、便所に行こうとしただけだよ」
「嘘!だったら、どうして、そんな大きな鞄を持ってるの?」
「うっ」
ヒカリに鞄を指差され、太一は逃れる事が出来ないと知る。
そして更に
「お兄ちゃん、正直に言ってくれないと、大声でお父さんとお母さんを呼ぶわよ」
ヒカリの目が真剣だったので、太一は逃れられないと思い、
「ごめんなヒカリ、俺、もう人間じゃないんだ」
「何言ってるの・・それは、確かにお兄ちゃん、ここ二、三日、なんか変だと思ったけど、普通の人間じゃない」
「い〜や、普通の人間じゃないぜ、この場で、ヒカリを食べる事も出来るしな」
太一は、そう言うと、ヴァンパイヤとしての能力を開放し、牙を伸ばし、牙が妹に見えるように、口を笑みの形に歪め、威嚇する。
「はぁ〜」
太一は、ヤマトの真似をして、獣の様な息遣いをし、前傾姿勢を取り、ヒカリに迫る、廊下で向い会う太一とヒカリ、
二人は、太一が一歩近付けば、ヒカリが一歩下がるを繰り返し、ヒカリは、すぐに玄関の扉を背にしてしまい、ヒカリは顔を俯ける事により、視線を太一から背け、両手を胸の前で握り締め、震えているが
「こっ、怖くないもん」
震える口で、気丈にも、そう言い放つ、そんな、妹を見ると、いたたまれなくなり、太一は牙を戻した。
「驚かせて御免、でも、これで信じるだろ、俺、もう・・・人間じゃないんだ。だから・・・一緒にいたら、ヒカリや母さんや父さんにも迷惑が掛かる。だから、行かなきゃ行けないんだ、ごめんな」
太一は、小学五年生になっても、変わる事無く自分に甘えてくる妹の頭を優しく撫でると、妹に背を向け、玄関で靴を履き終え、家を後にしようとするが、ヒカリにTシャツの裾を掴まれる。
「いっちゃヤダ」
「ヒカリ」
顔を深く俯け、肩を震わせ泣いている妹を見て、太一も悲しい顔を浮かべる。
「ここでお兄ちゃんを見送ると、なんか二度とお兄ちゃんに会えない気がする。だから・・・いっちゃヤダッ!」
ヒカリは、首を振り、兄のTシャツを、より一層強く握る。
「ヒカリ・・だいじょうぶ、絶対にまた合えるから、だから・・・笑って見送ってくれよ、ヒカリ、頼むから・・・兄ちゃんに笑顔を見せて暮れよ」
「お兄ちゃん」
ヒカリの顔は涙に濡れていた。
「だいじょうぶ、絶対にまた合えるから、俺、ヒカリとの約束破った事無いだろ、なっ」
太一も目に涙を浮かべていたが、妹の前で泣くものかと、涙を堪え、なんとか、妹に笑いかける。
ヒカリも、兄の心を察したのか、涙を両手で拭い、なんとか、笑顔を作る。
「お兄ちゃん」
「んっ?」
「いってらっしゃい」
「おう、いってくるぜ、ヒカリ」
太一とヒカリは、普段通りの挨拶を交わした。
太一は、ヒカリに見送りはもういいと言ったが、ヒカリはそれでも、家の中に入らず、家の前から、団地を出て行く兄の姿が見えなくなるまで見送り続け、兄の姿が視界から消えても、その場で立ち尽くしていた。太一は角を曲がり、一度家の方を振り返ると、両目から涙を流すが、すぐにゴシゴシと荒くふき取り、高速移動をして、ヤマトの家に向った。
後書き・はぁ〜、やっと終わりました。ヴァンパイヤナイト、あれ?これで終り?と思った方、一応次回予告的な事を一つ、この後のお話は、ヴァンパイヤブラッドの連載が終わったら、終章として、一話程アップ程させていただきます。それと、こちらのお話では説明し切れてない分を、ヴァンパイヤブラッドにて、説明していく予定です。では、ここまでお付き合いくださった方(いるのかな?かなり不安)、ありがとうございました。感想、give meです。