ヴァンパイヤ・ブラッド・5

「けっ」

大輔は、そう呟くと、不貞腐れたように地面の小石を蹴る。

 

一人になると、どうしても先日病院でタケルに対して取った態度が気になって面白くなくなる。どうしてあんな事言っちまったんだろう?考えるが答えなんて分んねえぇ、タケルに謝るべきかどうか、タケルの様子を見ながら悩んでたら、今日も学校が終わっちまった。タケル怒ってんだろうなぁ〜、いや、あいつは俺とは違って落ち着いてるから、逆に呆れてるのかもなぁ〜・・・そう思うと、気分がドンドン沈んでいく

 

「ああぁ〜〜、もうっ!どうすりゃいいんだよぉ!!」

大輔は学校からの帰り道の途中で立ち止り、頭をガシガシと掻いて叫んでいる。

「どうしたの?・・大輔」

「えっ?」

不意に声が掛けられた。声のした方向を見ると

「賢・・・ど、どうしてここに?」

大輔は、数ヶ月前にサッカーの試合を通じて知り合った親友が、そこに立っていた。

「ちょっとコッチの方に用事があってね、だから、大輔にも会えるかなって思って、大輔の家まで行こうとしたら、ここで会えたって事」

「ああ、そっか・・」

優しく微笑みながら答える賢に、大輔は頬が赤くなるのを抑えられず、答えると、恥かしいので軽く俯いてしまう

 

「なんか悩んでるようだったけど、どうしたの?・・僕で良かったら相談に乗るよ、話してみて」

「えっ?・・・」

賢に言われて顔を上げると、そこには身に纏う空気と同じく、優しく柔かい微笑みを浮かべた顔があった。大輔は更に顔が真っ赤になるのを抑えられず、俯きながら

「実は・・・・」

賢に先日あった事から今日までの事を話して聞かせた。

 

「ふ〜ん、なるほど、大輔は、その人にどうしたいの?」

「えっと・・・良くわかんねえよ

普段の元気だけが取り得の様な大輔が俯きながら小さい声で言う、

 

いつに無く弱気になって落ち込んでいるの様子の大輔を見て、賢は大輔の心をここまで揺さぶる相手に少し嫉妬を覚えた。

「そっか・・・それで、大輔は相手の事をどう思ってるの?」

「えっ!・・タケルの事?・・・・」

賢に言われて見て、改めてタケルの事を考えてみる。今までは嫌いだ嫌いだと思って来た相手だが、先日の出来事を境に相手の事を考えてみると、どうしても嫌いな奴だとは言い切れなかった。そんな考えに浸っていると、大輔は俯いてしまう

「俺・・バカだから、あんまり上手くは言えねえけど・・・嫌われたくない・・・」

賢が大輔の両肩に両手を置くと、大輔は顔を上げると、賢の優しい微笑を湛えた顔が、すぐ傍にあった。

 

「それじゃあ、大輔は自分が何をしたら良いか、分ってるんじゃないかな・・・このままだと嫌われるのが嫌なんでしょう?」

「ああ」

優しい微笑を浮かべながら言う賢に、そっぽを向きながら、投げ槍な相槌を打つ大輔

「そう思うんだったら、とりあえず、キチッと助けて貰ったお礼を言わないとね」

「そうだなっ!・・・ありがとう賢!俺タケルに明日会いに行ったら、キチっとお礼言ってみる」

そう言った時の大輔は、普段と変わらない元気な姿になっていた。

 

「それでこそ、大輔だよ・・・それじゃあ、僕は用があるから」

そう言って賢は、大輔に背を向けて、その場を去ろうとするが

「えっ!・・・もう行っちまうのか?」

不意に背中に声が掛かったので、顔だけ振り返ると

「うん、ちょっと急がないといけない様だから」

そう言って背中を向けたまま、腕時計を覗き込む賢を見て

「ごめんな、なんか俺なんかの事で、折角来てもらったのに」

そう言って視線を背ける大輔に

「良いよ、気にしないで、またいつでも相談に乗るよ」

賢は顔に優しい微笑を浮かべると、その場を去って行った。

 

賢は背後を顔だけ、僅かに動かして大輔の方を見ると、大輔は自分に背を向けて歩いているのが眼に入った。それを確認すると、賢は慌てて角を曲がり、壁に寄り掛かり俯く、大輔の前では平静を装ってられたけど、賢は大輔の心をあそこまで揺さぶる相手に対して嫉妬を覚えた。

 

次の日

 

いつものように大輔は学校に来て、サッカー仲間と他愛の無い話をし、タケルもクラスの話し友達と他愛の無い話をして過している。そんな時でも大輔はタケルの事が気になり様子を伺い見る。不意にタケルは視線を感じた方を見ると、大輔がすぐそっぽを向いてしまう、そんな遣り取りが何回か繰り返されている内に、放課後になってしまった。大輔は、タケルにキチっと謝ろうと思っているのに、話を切り出す切っ掛けや話す機会が無く、放課後になってしまった。

 

(こんな事でウジウジ悩むなんて・・・)

「ああぁ〜〜、もうっ!」

友達とサッカーをしている時も、他の事をやっている時も、タケルにキチっとお礼を言おう言おうと思い焦っている自分に腹が立ち、自分の頭をガシガシと荒く擦る。

「大輔君」

不意に聞きなれた声が掛かったので、声のした方を向くと

「タッ、タケル!」

今、自分の悩みの種である人物がそこに立っていた。

 

今日、大輔はサッカークラブの仲間と随分遅くまで、学校の校庭でサッカーをしていたので、おそらく自分の事を待っていたのだろうと思いながらも、やはり先日の事もあり、タケルに対しては、どうしても気まずくなってしまう

 

「ねぇ、大輔君」

「な、なんだよ?」

大輔は自分より背の高いタケルを正視出来ず、上目遣いに見ながら答える。

「今日、僕の事見てたけど、僕に何か用?」

「べっ、別に見てなんか、いねえよ!」

明らかに嘘を付いている事が明かな大輔の物言いに、タケルは目付きを鋭くして問い詰める。

「どうしたの?大輔君、あの事の後から、ずっと変だよ?僕何かした?大輔君に嫌われる様な事」

「べっ、別に何でもないって言ってるだろっ!?」

声を大にして言い放つ大輔に、タケルは大輔の両肩を荒々しく掴むと

「じゃあ、どうして僕の眼を見れないの?」

「うっ・・・・」

大輔の沈黙を肯定と取ったのか、タケルの眼光は鋭さを増す。大輔は顔を上げてタケルの顔を見ると、そこにあったタケルの顔に恐怖を覚えるが、目を反らさずにいたと思ったら、不意に俯き

「ゴ、ゴメン」

小さく沈んだ声で謝罪の言葉を口にする。

「大輔君?」

「ごめん!お、俺・・助けて貰ったのに・・お前にお礼言わないで・・文句ばっか言って・・・本当にゴメン!」

大輔は、タケルの胸を両手で押して、距離を取ると、頭を下げた。

不意にクスッという笑い声が聞こえ、大輔が顔を上げると

「気にしないで良いよ」

そこには普段通りの優しい笑顔を浮かべたタケルがいた。

 

後書き・すいません、今回も中途半端に終わります。