剣舞協奏曲
俺の名は、秋山遼、ヴァンパイヤハンターだ。自慢じゃないが、そっちの界隈じゃあ、ちっとは知られてるもんだ。三年前に俺の親友、治がヴァンパイヤに殺された事が切っ掛けで、ヴァンパイヤとヴァンパイヤハンターの存在を知った。そして俺は、復讐の為に、ヴァンパイヤハンターになった。そして、俺はついに、復讐相手の、ヴァンパイヤの足跡を見つけ、追ってここまで来た。
「遼、こいつで間違いないんだね」
「ああ」
遼は、差し出された写真の男の顔を確認すると、ヴァンパイヤハンター協会の、現地通訳に向って、頷き答えた。遼の答えを聞いた、現地の通訳は、ハンターズギルドの受付から、なにやら色々と聞き出している。
ここは、ロンドンの某所にある。一見普通のホテルに見えるが、それは、表の顔であり、その実体は、世界各地に根を張り、地球上にある全ての国家に影響力を持つ、ヴァンパイヤハンター協会が経営している物で、ハンターズギルドをカモフラージュする為に、作られたホテルである。
「とりあえず、ギルドが、掴んでいる情報は、全て聞き出して、ここにメモしたから、今日はもう遅いし、上の部屋で休もう」
「分った。ウォレス」
遼は、現地通訳を勤める金髪の、自分より、三歳年下の少年に答えた。
現地の通訳を勤めるウォレスも、また小さい頃に、自分の大事な妹を殺された経験から、遼と同じ目的で、ヴァンパイヤハンターになった口で、ハンターとしての腕は、まだ未熟だが、英語と日本語を話せるという事から、現地にやって来たヴァンパイヤハンターの通訳として、働いているのだ。
遼は割り当てられていたホテルの一室に着くなり、自分の身の丈ほどある。巨大な木箱を開けた。中には、白い布に包まれた巨大な物が収められており。白い布を解くと、中から、巨大な銀色の西洋の両刃の剣が出てきたが、それは、剣と呼ぶにはあまりに大きく見えたが、刃の厚さはそうでもなかった。刃の幅が20cm程あり、長さが1m半程ある巨大な外見に対し、刃の厚さは、1cm程で巨大な外見の割りに刃は薄く、重さに任せて相手を押しつぶしたりする武器では無い事は、刃こぼれ一つ無く、研ぎ澄まされた刃から伺えた。
「WOW、それが、ソードマスターの異名を取る。ヴァンパイヤハンター秋山遼、愛用のシルバーソード(銀の剣)だね」
ウォレスは、見事な光沢を放つ、巨大な銀の剣を見ると、素直に感嘆の声を上げる。
「まあな」
遼は、ウォレスに答えると、木箱の中にあった。一枚の柔かい布を取り出し、剣を磨き始めた。外観の割りに、刃は薄い為、片手で軽々と持ち上げると、開いてる手で、剣の横腹、刃の部分を丁寧に丁寧に拭いていく、作業が終わった時には、始めて見た時も輝いて見えたが、終えると更に輝いて見えた。
「さて、明日は狩りだ、今日はもう寝るぜ」
「そうだね」
遼は、剣の手入れを終えると、剣を布で包み、すぐに取れるように、ベットの傍らに置くと、ベットに横になった。ウォレスもそれに習い、電気を消し、横になった。
「遼、賢、何やってんだよ、早く来いよ!」
「分ってるよ治、すぐ行く」
俺と賢は、ふざけながら歩いてたら、前を歩いている治に怒られてしまった。
「ごめん、お兄ちゃん」
賢は、治の事が大好きなため、治の脇まで、慌てて駆けて行く
「まったく、もう、夜も遅いんだから、早く帰らないと、お母さんに怒られるだろ」
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
治が僅かながらに不機嫌気味に言い放ち、賢は俯いて謝っている。
「治、まあ、そう言うなよ、原因は俺にあるんだし、賢を怒るのは、見当違いだぜ、なっ」
俺は、後ろから、勢い良く治の肩に手を回す。
そう、あの日は、夏祭りだった。俺は射的に熱中してしまい、気付いたら祭りも終りの時間になり、当然ながら、小六の俺、小五の治、小二の賢が出歩く時間ではなく、帰り道を気持ちは急いでたが、ゆっくりと何気なく歩いていた所だった。
「わっ!バカッ、とっとっ」
俺が後ろから、後頭部に腕をぶつけるようにして、肩に手を回した為、治は一瞬、バランスを崩しそうになるが、
「そうだぞ、秋山、母さんに怒られたら、お前のせいだからなっ」
なんとか立て直し、俺の方に、きつい視線を向ける。
「オーこわ、そんな目で見つめんなよ、照れんだろ」
「僕がどうして!お前を見つめなきゃならないんだ!!」
治が、きつめな口調に変わったので
「ヤバッ、賢、逃げろーーー」
俺は、賢の手を引き、走り出した。
「わっ、ちょっ・遼さん」
俺に手を引かれ、転びそうになるが、なんとか、体勢を立て直し、走り出す賢
「まったく」
治は、走っていく、遼と弟を見て、小さく溜め息を着き、口元に小さな笑みを浮かべる。
「遼さん、オシッコ行きたい」
「何っ、それはまずったな」
俺は辺りを見渡すが、当然のごとく、そこら辺にトイレは無いと思うが、人気の無い公園が目に入り、そこに、トイレが見えたので、
「よし、賢、あそこにトイレがあるから、行って来いよ」
「えっと・・・」
トイレを指差すが、賢はモジモジとして、トイレに行く様子が無い
「賢、僕も一緒に行くから、安心しろ」
「お兄ちゃん、ありがとう」
途端に賢は顔を輝かせる。
なるほどね、夜に一人で人気の無い公園は、小二の賢には、厳しいよな、そう思い苦笑して、公園に三人で向かい、俺は、公園の入り口で、トイレに行った、治と賢を待つ事にした。
この時、俺も一緒に行けばよかった。相手はヴァンパイヤだから、治を守る事は出来なかったと思う、だけど、何も治が死ぬ事は無かったかもしれない、そう思っても、過ぎ去ってしまった過去は、どんなに望んでも変えられない物だ・・・
「うあああああっ!」
「賢、逃げろっ」
賢の悲鳴が聞こえ、その後に、治の声が聞こえたと思ったら、賢が、トイレから、飛び出してきた。賢は何かに酷く怯えているようで、四つんばになり、地面を掻き、必死になって、その場から逃げ出そうとしているようだった。俺は慌てて、賢の傍に走りより、どうしたんだ?と尋ねるが
「うああああああっ」
賢は、何かに酷く怯えていて、俺にしがみ付くばかりだった。
「賢、だいじょぶだから、俺がついてるから、心配するな」
賢の様子から、ただ事ではない事が起こったと思われるが、俺は、賢の頭をぽんぽんと叩き、とりあえず、落ち着かせ、賢をその場に座らせると、トイレの中にいると思われる、治の安全を確認しにトイレを覗き込むと、
そこには!!!!!!!
ピチャリピチャリと水滴が垂れる音が聞こえてきたが、床に垂れて水溜りを作っているのは水滴ではなかった。赤い液体だった。その赤い液体が何処から垂れてるのかを確認する為に、視線を持ち上げると、見慣れたスニーカーが宙に浮いているのが目に入った。そのまま、視線を上に上げてくと、誰かがこちらに背を向け浮いているのがわかった。そして、そのだれかは、服装や見慣れた髪型から治だと確認でき、良く見て見ると、治の両肩を左右から挟み、誰かが、治を持ち上げ、その首筋に食らいついているのが、治の肩口から確認できた。床に垂れていた赤い液体は、治から吸い出している物、そう、赤い液体は、治の血だった。
そいつは、治の首筋から、治の血を吸い出している最中だった。
この時、俺は、本当の恐怖を知った。その時、俺は、治の身の心配よりも、恐怖に支配され、何がどうなってるのかも、どうすればいいのかも、頭が真っ白になり、分らなかった。
「見たな」
相手は、治の肩口から俺の事を確認すると、異常なまでに低い声で、言い放った。
「見た以上、生かしておくわけには行かない」
相手は、そう言うと、俺に向って、異様に長く伸びた五指の爪を繰り出してきた。10cm程の長さに伸びた右手の爪が四本、俺の左肩に突き刺さった。体に激痛が走った。
「ぐあああああっ!」
俺は、堪らなくなり、絶叫を上げ、トイレから飛び出し、俺は、地面を転がり、のた打ち回る。
「うっ・・・うあああああああっ!」
俺を追ってトイレから出て来た。ヴァンパイヤの姿を見て、賢が悲鳴を上げた。
俺達の絶叫と悲鳴を聞いて、公園と道路を挟んで隣の団地の扉が何個か開き
「おい、悲鳴が聞こえなかったか?」
どよどよとした、付近住民の声が聞こえ、こちらの様子を伺っているようだった。
「助けてぇーーーー!誰かーーー!」
賢は、咄嗟に叫んでいた。俺もそれに促され、ここで助けを呼ばなかったら、死ぬという現実から逃れる為に、助けを呼んだ。
「ちっ、人が集まってくるか、厄介だな」
相手は、そう言うと、俺達の前から、消えた。
後書き・とりあえず、ここで区切らせてもらいます。今回のお話、剣舞協奏曲は、遼視点のお話です。遼を主人公にしたお話は始めてです。いかかでしたでしょう?本来は一話限りで終わる予定でしたが、予定とは狂う物ですね(苦笑)