好きという気持ち

 

カイザーは、その日も選ばれし子供の一人、本宮大輔の事を考えていた。なぜか気付けばあいつの事を考えている自分に、大輔が他の選ばれし子供の仲間と楽しそうに笑いあっているのを見て機嫌の悪くなる自分に、そして天才である自分にも分からないこの感情にイライラしていた。そして、そんなある時カイザーの立てた作戦で大輔を土下座させせた。その時に自分の正体を知られた。だがその時、かつて無いくらいに、もっと、こいつを自分の思い通りにしたいという独占欲が目覚めているのを知った。もっと、あいつの姿を近くで見たい、そしてその声が聞きたい、そして全てを自分の物にしたい、その思いの正体は何なのかわからずにいらいらしている。

 

そんな思いの中、要塞のモニターの中の大輔を見ていると、どうやら、それぞれ一人と一匹ずつに別れてより広い範囲のダークタワーを倒しに行くという作戦を思いつき実行に移したようだった。それを要塞のモニターで見ていたカイザーはこれこそ自分の待ち望んでいたことだと思いこの気持ちの答えを知る為に、早速お目当ての人物である本宮大輔の向かったエリアに先回りした。

 

目的のエリアについた大輔は

「ブイモン、じゃあ行くぞ」

「わかってる大輔」「デジメンタルアープ」と叫びブイモンをフレイドラモンにアーマー進化させた。

そしてダークタワーを倒し、ダークタワーの立っていた森の所で、Dターミナルで他の仲間が行ったエリアの、ダークタワー破壊の進行状況を見ていると、背後から口に白い布が強く押し付けられた。後ろからなので誰かはわからないがブイモンの方を見るとイービルリングに操られているデジモンに押さえつけられていた。やばいと思い抵抗を試みるが猛烈な睡魔に襲われ大輔は意識を手放した。

 

カイザーは、自分の目の前で自分により眠らされ自分に倒れこんで力なく寄りかかってくる大輔を見て、心が高鳴り胸の鼓動がドックンドックンと強く早なり呼吸が荒くなるのに対処できずに、しばらく大輔をそのまま支えていたが、何をしていいかわからなかった。そもそも大輔に会いに来たのも本能的な行動であったため、これからどうしていいかもわからずにいたが、本能的に大輔を抱き上げその場を後にした。要塞に連れ帰り、とりあえず、大輔とパートナーデジモンを別々の離れた牢屋に閉じ込め、大輔には暴れないように両腕を広げて天井からつながっている鎖を、手首に止め足も床からつながっている鎖で拘束した。

 

それから暫くして大輔は目覚めた。ぼやけていた視界がはっきりしてくると自分の目の前に今、自分達選ばれし子供達の敵で、デジモン達に酷い事をしてきた。自分達の憎むべき敵が声を掛けてきた。

「おや、ようやくお目覚めかい」あざけ笑うような声が掛けられてから、大輔の意識は覚醒した。

「デジモンカイザー!」

目覚めたばかりで現状が理解できない大輔も、自分の体が拘束され、身動きのとれない状態にあるのをみて現状を理解した。

「俺をどうするつもりだ」敵意のこもった眼で大輔はカイザーをにらみつける。

 

カイザーはその敵意のこもった瞳で睨みつけられた瞬間、自分の胸の中が苦しくてどうしようもない位に胸が痛くて、胸に手を当てその痛みに顔を歪めそうになるが歯を食いしばり、口元にいつもの嘲笑の笑みを浮かべ。

「どうするつもりかだと?君は自分が今どういう状態か理解してて、その言葉を吐いてるのかな?」

「へっ、ああ、わかってるよ、俺は今お前に囚われているそれだけだろ」

それがどうしたと言わんばかりに、再び敵意のある眼で睨みつけてくる。再びその眼で見られ胸が苦しくなると同時に心の中から声が聞こえてくる。

 

(違う、違う、そんな眼で僕を見て欲しくて、ここに連れてきたんじゃないんだ)と言う心の声を聞き、

じゃあ、どんな眼をして欲しかったんだ?考えるが答えは出ない、そんなカイザーの気持ちなど知らずに、

大輔は敵意剥き出しの眼で睨みつけてくる。

「僕をその眼で見るな!」バシン、叫ぶと同時にカイザーは大輔を鞭で打ちつけていた。

「いって〜な・・・このやろう」力一杯、鞭で打ちつけられた為、苦痛に顔をゆがませる大輔、それでもカイザーを敵意のこもった眼で睨みつける。その眼から逃れたいが為に、カイザーは混乱状態に陥りながらも

「僕をそんな眼でみるなーーーーーーーー」叫びながら大輔を鞭で何度も何度も打ちつけた。

バシン、バシン、バシン、と何度打ち付けたかわからなくなる位打ち付けてから、はっと我に返ると大輔は気絶していた。

 

それを見てカイザーは更に胸の苦しみが増すのを感じた。

(なぜだ、なぜ叩いているのは僕の方なのになぜこんなに苦しいんだ?あんな眼で見られたくなかった、あんな眼で見られたくてここに連れてきたのではない、では、どういう眼で見られたかったんだ?まさか、僕は本宮大輔が・・・好・き・・なのか)

自分の気持ちを確認すると全てに納得がいった。はっとなって、大輔を見ると体のあちこちに青あざや裂傷ができており気絶しているのがわかった。

 

「おい、おい・・しっかりしろ・・おい、返事をしないか!」と何度か体を揺するが、目覚める気配のない大輔

(もしや、僕はこいつを殺してしまったのか?イヤ待て)

再び混乱に陥りそうになりながらも、何とか冷静さを保ち大輔の鼻の近くに耳を近づけ呼吸音を確認し、ホッと胸を撫で下ろした。

 

(とりあえず、こいつの手当てをしなくちゃな)

そう思い、手足を拘束していた鎖を解き、現実世界を捨て、こちらの世界にずっといるようになってから、使うようになった寝室のベットに大輔を横にしてから、ワームモンに裂傷に効く薬草と、何か食べる物を取りに行かせた。それからワームモンが帰ってくるまでの時間を、大輔に付き添い、看病をしようと思ったが、看病しようにも薬も何もないので、濡らしたタオルで、とりあえず、腫れている所を冷やしてやり、血をふき取ってやった。

 

暫く傍にいる事にして、冷静に考えてみると、思考がどんどんとマイナスに向いているのが分かった。

(僕は大輔を傷つけた、もう、きっと僕のことなど敵としてしか見てくれないだろう。どう考えても弁解のしようが無い)

そういう考えばかりが浮かんできてしまい、思いを伝えることも出来ずに、嫌われてしまったと思うと、涙が出てくるのを止められなかった。カイザーは大輔の右手を両手で包み込むように掴み、祈るように握り締め

 

「ごめんよ、本当は傷つけたかった訳じゃないんだ。僕はお前の事、本宮大輔の事が・・・好きなんだ」

呟くように言い続ける。そうしていると後ろのドアが開きワームモンが帰ってきた。

「賢ちゃん、お待たせ」非常に不安定な気分の時に、もう捨てた名で呼ばれた事により、カイザーの逆鱗に触れたワームモン

「この虫けらが!何時まで待たせる気だ!」カイザーは叫ぶと、いつになく不機嫌な為に、いつもより力を込めてワームモンを鞭で打ち据える。バシン、バシン、バシン、

「痛い、賢ちゃんやめて」ワームモンは自分の拾ってきた食べ物や薬草を床にばら撒きながら叫ぶが

「何度言ったらわかる。もうその名は捨てたんだ、僕を呼ぶときはカイザーと呼べ!」

叫びながら更に鞭を振り下ろそうとしたが、後ろから、カイザーの鞭を持つ手を掴まれてしまい、鞭を振り下ろせなかった事により、更に苛立つカイザーは振り返ると、

 

そこには、いつのまにか目覚めたのか、今、最も傍に存在を感じたい人である本宮大輔がベットから降り、相変わらず強い決意を秘めた瞳で見つめてくる。呆然としていたカイザーに大輔が

「お前のパートナーなんだろ、もっと大事にしてやれよ」静かな口調の中にも、強い意志を感じられる声で語りかけてくる。

そんな大輔を見て心にも無い事を言ってしまうカイザー

「うるさい、お前には関係ないだろう!」本当は素直に気持ちを伝えたいのに慌ててしまい、怒鳴る様な口調になってしまう、

「関係ないわけないだろ!お前だって俺達と同じこのデジタルワールドに選ばれた子供達の一人なんだろ、だったら、もう少し自分のパートナーにやさしくしてやれよ!」

 

大輔は声を荒げて言い放つ、だが、カイザーにとっては、少しでも自分の最愛の人の口から、関係があると、同じと、言われた事がうれしかったのだが

「関係ないわけないだと、では聞こう、なぜ貴様達選ばれし子供達は、僕のやる事をいちいち邪魔するをする?いったいどんな僕と君とどんな関係が有ると言うのだ?」

やはり、素直になれず、嘲笑するかのような言い方になってしまう。

 

(違う僕が言いたいのはこんな事じゃないのに、もっとこんな事より、話しておきたい事があるのに)

 

「俺たちとお前は」大輔が何かを言おうとしているのを、カイザーが強引に遮った。

「うるさい!そんな事より・・・・お前は怪我してるんだから・・お、おとなしくしてろ・・・」

語尾に行くにつれて声が小さくなり、最後の方は消え入りそうな声だったので、大輔には聞こえなかった。

「怪我してるんだから、なんだって?」

カイザーは自分の勇気を振り絞って、掛けた思いやりの言葉が、聞こえていなかったことに腹が立ち

「怪我してるんだから、大人しくしてろ、といったんだ、この馬鹿が!!」

半ばやけになり怒鳴りつける様にだったが、なんとか自分の思いを伝えることができた。大輔の方を見てみると、よほど言われたことが意外だったのか、しばらく唖然としていたが

 

「ありがとな、心配してくれて」

素直に見つめられながら礼を言われてしまい、カイザーは顔が赤面して行くのを隠すために、マントを翻し背を向けた

「い、一応・・僕がお前に怪我をさせてしまったんだからな」

(しまった、こいつは馬鹿だから僕にされた事を忘れていたのかもしれないのに、何でこんな時に余計なことを言ってしまったんだ、天才である僕としたことが)自分の言ってしまった事を後悔していると、鞭で打ち据えられて、部屋の端で転がっていた筈のワームモンが、いつの間にかカイザーの足元にいた。

「でも、賢ちゃんはやさしいから、ちゃんと君の事を思って、僕に薬草を取ってくるようにいったんだ」

遠回しにだが、自分のやりたい事を伝えてくれたワームモンに普段は絶対にしないのだが、カイザーは今日だけは賛辞の思いを送った。だが、やはりバツが悪く振り向くことが出来ずしばらくの間、その場を沈黙が支配している。

 

だが、その場を動かしたのはカイザーの方だった。振り返りながら

「とっ、とりあえず、そこのベットに座れ」振り向きながら言うと、

大輔は、やはり何が何だか今だに理解できずに呆然としていた。

「何、ボケッとしている。さっさと座れ」大輔の肩に手を掛け、押し倒すような動作でベットに座らせる。

「あ・・ちょ・・・どういう・・・風の吹き回しだよ!」やはり、大輔はカイザーに敵意程ではないが警戒はしている。

そんな大輔を見てバツが悪いカイザーは

「その・・・さっきは・・・わるかった」

やはり語尾は消え入りそうなほど小さい声だが、今度は大輔との距離が近かった為、大輔の耳にもきちんと聞こえた。

 

「へえー・・なんか安心した」

大輔は口元にやわらかい笑みを浮かべてカイザーの顔を覗き込んでくる。

その表情のあまりのかわいさにカイザーは顔を赤面するのを抑えられずに

「なっ、何が、安心したというのだ」赤面しながら上擦った声で言い放ちながらも、

とりあえず大輔に触れる為に、しなければならない事を思い出し

「とにかく、上半身に着ている物を脱げ」

大輔に背を向け、先程ワームモンを鞭で叩いた時に、床に散らかった薬草を拾い集め、ゆっくりと大輔の方を振り返ると、そこにはもう、上半身に来ていた服を脱ぎ終えた大輔が、ベットに腰掛けていた。薬草を持ってカイザーは大輔に近づき、体にそっと手を置き傷口を確認する不利をしながら、大輔の肌の感触を視線と手で楽しんだ。

 

(無駄肉のつきにくい細くしまった肉体、それでいてサッカーをやっているためか、程よくついた筋肉、この体が欲しい、自分の物にしたい)

そんな思いに浸っている。顔を直視して赤面したくない為、前屈みの姿勢をとり顔を大輔の胸の辺りに置いていた為、頭上から大輔の声と息が降ってきた。

「なあ、そんなにじっと見てるけど・・・その・・・そんなに・・・ひどいのか?」

大輔の吐いた息が、自分の髪を撫でる感触にくすぐったさを覚えながらも、

なぜ先程、自分がしてしまった事をなぜ攻めないのか?疑問に思い

「なぜ?・・・攻めないんだ・・これは・・・ぼくがつけた傷だぞ」

カイザーは目を合わせなかったおかげで、普通の声で平静を保ちながら聞くことが出来た。

「だって、お前悪いと思ってるじゃん、こうして手当てまでしてくれてんじゃん」

どうかしたかといわんばかりに言われ、どうしても好きになった奴のことが理解できず

(なぜ、自分を傷つけた奴を責めないんだ、なぜだ?)いくら考えても答えは出ずに悩んでいると、

「なあ、一乗寺」不意に捨てた名で呼ばれたが不思議と腹は立たなかった。

(やはり、僕はこいつが好きなんだ)と思い、

 

とりあえず大輔の体に薬草を貼り付け、その上に包帯を巻いて服を着せてやった。

「サンキュー」大輔が誰にでも見せる。あの太陽のような笑顔で、面と向かって笑いかけられた。初めて自分は人から笑いかけられ、しかも、その相手は自分の思いを寄せる相手であった為、カイザーは気付いた時には、大輔をベットに押し倒し、唇を奪っていた。