星の光と星の闇・8

「湯を釜一杯に沸かすハラ!」

「分ったぁ〜」

ポコモンのテキパキとした指示に、間延びしたネーモンの声が響く、ポコモンは輝二の傷口から流れ出た血を沸いたばかりの湯で洗い流すと、また新たな血が流れ出てくる患部に薬草を貼り付けて、傷口を止血すると包帯を巻きつける。

「ふぅ〜、なんとか血も止まったハラ・・後は目が覚めるのを待てば良いだけじゃぞぃ」

ポコモンが床に尻餅を着くと額の汗を手の甲で拭う

「良かったぁ〜、助かってぇ〜」

「ワシはちょっと疲れたハラ、ちょっと寝るから、目が覚めたら起こして欲しいハラ」

「分ったぁ〜」

そう言うと、ポコモンは自室に向った。

 

ポコモンとネーモン、二人のデジモンが住む家は、二人で住むにはかなり大きく、部屋は二人の寝室以外にご飯を食べるテーブルと暖炉が置いてある部屋、そして客間と四つも部屋があるのだ。白く塗られた壁は粘土質な物で出来ており、赤く塗られた屋根は木の板を使っている。

 

「うっ・・・ン・・・っ!」

輝二は寝返りをうった時に胸に走った痛みに意識が徐々に覚醒していく、ゆっくりと目蓋を開けると、ボヤケていた視界が徐々に開けてくる。目だけ動かして辺りを確認すると、見た事も無い生物が自分の顔を覗き込んでいる。幸い大人しそうな生き物で、始めてみる物にも関らず、不思議と警戒はしなかった。

「こ・・・ここは?・・・つぅっ」

輝二は上半身を起こすと、胸の傷が痛み顔を歪めてしまう

 

「あっ・動かない方が良いよ・・君、酷い怪我してたんだから・・ジッとしてなよ」

そう言うと、ネーモンはどこかへ行ってしまった。

ネーモンに言われてみて、輝二は記憶を辿ると・・・

「そうか・・俺はあの時ダスクモンに」

輝二はセーラー服の上に巻かれた包帯を見て、ダスクモンに切られたのを思い出す。包帯に巻かれた傷口の上に白い手袋に包まれた右手を持っていく、そしてその手が下ろされると、悔しさの余り自分に掛けられている布団をキツク握り締め、歯を食いしばる。

「目が覚めたようじゃな」

「ん?・・・」

声を掛けられて、声のした方を見ると、そこには白い背の低い生き物が立っていた。

 

「いくら血が止まったとはいえ、無茶はいかんぞぃ、とりあえず、今日はゆっくり寝てるハラ」

「えっ、あっ・・こっ、ここは?・一体・・」

輝二はダスクモンの事はとりあえず置いておく事にして、今は自分の置かれている状況が気になった。

「ここは、デジタルワールドじゃぞぃ、人間の住んでいる世界とは、別の次元に存在してるハラ」

「あっ・・ああ、ちょっと前にオファニモンから聞いた事がある」

それから輝二はポコモンの話を聞いて、お互いの自己紹介を軽くして、この世界の情勢をポコモンに説明されて、ようやく理解した。

 

自分はどうやら、なんらかの衝撃でデジタルワールドまで飛ばされてしまったらしく、オファニモンは、今は敵対していたケルビモン率いる勢力に囚われてしまい、デジタルワールドの治安は悪化の一途を辿ってしまっているらしく、ケルビモンの部下が地方の村々の支配まで手を伸ばしているらしい、幸いポコモン達は村から離れているが、麓の村も日々ケルビモン達がいつ支配しに来るか、不安な日々を送っているらしい

 

「そうだったのか・・あ・ありがとう・」

輝二は普段人と触れ合う事を避けている為、お礼を言う言葉を言いなれてないせいか、自然と声が小さくなり、相手の事を見れなくなってしまう

「気にしないでいいぞぃ、当然の事をしたまでじゃ、それよりも輝二はんは怪我人なんだから、寝てないと駄目じゃぞぃ、今はゆっくり寝るハラ、話の続きはまた明日ゆっくりすれば良いゾイ」

「分った」

輝二はポコモンにそう答えると、ポコモンが部屋から出て行くのを見届けると、横になると扉に背を向け、目を瞑った瞬間に輝二は眠りに付いた。

 

次の日の朝

輝二はやはり気を失っていた時間が長かったのか、窓から差し込む光に目を覚ましてしまう、そして、見慣れない部屋で寝ている事に一瞬戸惑うが、胸の包帯と昨日のポコモンとネーモンと話をしたのを思い出し、改めて自分の置かれた状況を考えていると、部屋の扉が開き、ネーモンが部屋に数歩だけ入ってくる。

「朝ご飯にするよぉ〜」

ネーモンはそう言うと、体を左右に揺らしながら、輝二の返事を待たず部屋から出て行ってしまう

「あっ・・ああ」

輝二は言われて、ベットから足を出すと、ポコモン達が脱がしていてくれたのか、藍色のショートブーツがベットの傍に揃えて置かれているのが眼に入った。ブーツに足を通し、ふと考えてると、自分はまるまる一晩変身した姿を保っていた事になる。いくらここが人間の世界では無いとはいえ、このままの姿で出歩くのは、さすがに男としてもプライドが許さず、変身を解こうと試みるが戻れなかった。何度か試みてみるが、戻れない事に気付いた。

 

人間の世界では変身する事により、身体能力が飛躍的に高まるので、女の格好をしなくてはならない事に抵抗はあったが、堕天したデジモンと戦わなくてならない為、変身していたが、この世界が人間の世界じゃないせいか戻れなかった。さすがに格好で出歩くのには抵抗を覚えたので、後でポコモン達にいらない服を貰うか借りるかしようという事で考えを纏め、部屋を出た。

 

「おはよう、輝二はん」

「あっ・・ああ、おはよう、ポコモン・・ネーモン」

「おはよ〜」

テーブルの傍に付くと、カラフルなキャベツが大きな皿の上に何個も乗っていた。

「こ、これは・・・」

「ああ、輝二はん、これはこのまま食べる食べ物なんや、美味しいから食べてみるゾイ」

「えっ、ええ!・・・」

「うんうん、美味しいよ」

ネーモンは、ムシャムシャと赤いキャベツを口に含みながら言う

 

ポコモンもネーモンも千切ったキャベツを口に運びながら、じっと自分の事を二人して見てるのを、輝二はポコモン、ネーモン二人を交互に見やった後、騙されたと思って、白い手袋に包まれたままの手で、キャベツの葉を少し千切って一口、口に含むと、醤油とショウガの風味が口に広がり

「これは、ショウガ焼きの味・・・」

目の前のキャベツをかじると、そのキャベツからは、ショウガ焼きの味がするではないか、なぜキャベツが?という疑問はさて置いて、そういえば昨日から何も食べていない事を思い出し、輝二は色とりどりのキャベツの葉っぱを一通り一枚ずつ千切ると食べてみる事にした。

 

色とりどりのキャベツを食べ終わる頃には、輝二も落ち着いて考えられるようになっており、まず、自分が何をするか、この世界・・デジタルワールドの今の情勢など、分らない事だらけなのに気付き、とりあえず、ポコモンが今知っている事だけでも聞けば何か分るかもしれないと思い

「それで、ポコモン、昨日聞きそびれたんだが、今のこのデジタルワールドはどうなってるんだ?」

「う〜ん、昨日も言ったけど、かなり難しい状態じゃゾイ」

ポコモンは腕組みをして、俯いて唸り深く考えている様子だった。

「今はケルビモンがこの世界を治めていると言う事で大きな争いは無いようじゃが、もっと多くのデジモンが住む町や村に行くとただ、きつい支配があるだけだと聞くゾイ」

「そうか、それじゃあ、オファニモンが、どこにいるか分るか?」

輝二に訪ねられ、ポコモンは顎に手を当てて天上を見上げながら随分前に聞いた噂を思い出す。

 

「確かぁ〜、数ヶ月前にケルビモンに捕えられてぇ〜・・バラの明星に閉じ込められていると聞いた事があるゾイ」

「そうか、それでその・・・バラの明星というのはどこにあるんだ?」

「ちょっと待つハラ」

ポコモンはそう言うと、部屋の片隅にある。紙を丸めて筒状にした物を何本も縦に入っている箱をガサゴソとあさり出した。

「これじゃ、これじゃ、あったゾィ」

ポコモンはご飯を食べたテーブルの上に、この世界の物と思える地図を広げた。

「ここがワシらの今居る場所・・・そして、ここがバラの明星でオファニモンが閉じ込められている場所にして、ケルビモンの本拠地とも呼ばれている城じゃゾィ」

その地図でバラの明星を指差され、輝二は目を見開いた。地図の左端と右端という、よりにもよって一番はなれた場所にあるのだ。ポコモンは、確かに、この場所は確かにバラの明星から離れているが、だから、ケルビモンの国とオファニモンの国の国境からも最も離れている為、この様な状態になっても平和なのだと言う事を付け足す。

 

それ以後のポコモンの話を聞いた所、地図の左側は元来オファニモンが治めている国で、右側はケルビモンが治めている国だった。二つの国はお互いに共存共栄していたにも関らず、近年ケルビモンが突然攻めてきたのが原因で戦争に発展したが、圧倒的な力を持つケルビモンによって、あっという間にオファニモンの軍勢は破れ、現在に至ると言う事だった。

 

輝二は正直どうして良いか分らなかった。頼みとしていたオファニモンは遥か彼方で囚われの身、そこに行こうにも、ケルビモンの軍勢が検問をしていて、行くのに時間が掛かってしまう為、最低でも一年は掛かるという

「ふぅ〜〜・・どうすればいい?・・オファニモン」

空を見上げながら、輝二は深く深刻な溜め息も付いた。

ポコモン達の住む家の前の、なだらかな傾斜になっている草むらで寝転がり、改めて空を見上げる。

人間の世界となんら変わらない青い空・・・なんも解決していないが、不思議と気分は落ち着いてくるが

 

「はぁ〜〜」

輝二は諦めとも付ける溜め息を付いた。この溜め息の原因は、現在の自分が身につけている物にあった。ポコモン達の話だと、デジモン達が身につけている服は持って生まれてくる物だけで、それ以外は衣服を着るという文化が無く、生活必需品を作ったりするのに裁縫をしたりはするが、服と言う文化は無いらしいのだ。

「という事は、暫くはこの格好のままか・・・はぁ〜」

輝二は半身を起こすと、今、自分の着ている見慣れた格好だが改めて見る。

 

袖の無い黄色の大きなリボンの付いた白を基調としたセーラー服、今は胸元を斜めに切り裂かれて、服の上から包帯を巻かれているが、さすがに上半身とはいえ裸で過す訳には行かず、後で裁縫は得意では無いが縫うしかないかと憂鬱に思い、そして、下半身は下着が見えそうになる位、短い藍色のスカート

「はぁ〜〜」

輝二は再び盛大に溜め息を付いた。