星の光と星の闇・5

行為を終え眠りに落ちた輝二は、自分の前髪を鋤かれている感触に目を覚ます。

「う・・・・ンっ・・・・・」

目を開けると、そこには行為の相手である白い仮面の男が微笑を浮かべていた。

「おはよう」

微笑に恥じない、優しい囁きが男から発せられた。暫くの間、自分を上から覗き込む男の顔を呆然と見つめていたが

「っ!!!・・・・・・」

輝二は、先程の行為の事を思い出し、慌てて男の膝から頭を起こすと、慌てて男から顔を反らすが、顔が熱くなって行くのを抑えられなかった。そして、身なりを確認すると、脱がされた下着は元に戻されていた。

「クスッ」

輝二の耳まで真っ赤にしている顔を見て、仮面の男は静かに微笑む

 

「今日は、土曜日だから、学校はお休みだけど、そろそろ両親が起きる時間だと思うから、早く帰った方が良いんじゃないかな?」

「あっ!!・・・・・」

仮面の男にそう言われ、辺りを見渡すと、もう朝日が顔を出している所だった。

「立てる?」

男が輝二の傍に立ち、手を差し出す。男の手を取らずに、自力で立ち上がろうとすると

「うっ・・・・」

腰に鈍痛が走るが、輝二は腰に手を当て腰を擦りながら、自力で立ち上がると、自分の痛めていた右足の痛みが引いているのに気がついた。

「どうやら、一人でも動けるみたいだね」

「・・・・ああ」

まだ、僅かに熱の残る顔を男から反らし、輝二は頷く

「それじゃあ、俺は帰るけど、君も早く家に帰るんだよ」

「お、おいっ!!」

仮面の男はそう言い残すと、輝二の前から、枝の上に飛び上がり、枝の上で、輝二の方に顔だけ振り返り、

「またね」

口元に微笑を浮かべると、男は枝から枝へと飛び移り、あっと言う間にどこかへ行ってしまった。後を追うにも、この腰の痛みを堪えてまで追う気にはならず、輝二も家に帰る事にした。

 

あらかじめ開けて置いた二階にある自分の部屋の窓を開けると、輝二は部屋の中へ滑り込む、部屋のドアには内側から鍵を掛けており、自分が夜出掛けている間に両親に部屋に入られる心配は無い、部屋の中に入ると、輝二は変身を解き、服が元に戻ったのを確認すると、輝二は、パジャマに手早く着替え、さすがに昨日、余りに色々な事が起こり過ぎ疲れていたらしく、ベッドで横になると、すぐに眠りに付いた。

 

それから数日後のある日

 

「輝一、お前には兄弟がいるんだよ・・・」

「えっ・・・・」

「名前は輝二・・・」

新たな命が生まれ、新たな死が訪れる。そんな遣り取りが当然と行われる病院にて、ベッドに横たわった老婆は死を前にして、孫に今までずっと隠してきた真実を打ち明ける。病院のベットに横たわる老婆の突然の打ち明けに、老婆の手を握る孫と思われる少年は、驚きを露わにする。少年の顔は輝二と良く似ているが、少年の髪の毛は輝二とは違い耳の下までしか無く、輝二とは別人だった。少年の名は木村輝一、父親は死んだと幼い頃に教えられたきり、その事に疑問を抱く事も無く、母、祖母、自分の三人で暮らしてきた。母子家庭の為、働いている母の帰りはいつも遅く、生活は豊かとは言えなかったが、そこまで酷くも無かった。母は優しく、祖母も温和、そんな二人に育てられた為、輝一は歳の割りには凄く落ち着いていて、しっかりしていると学校の先生達や近所の人達にも評判で、学校での成績も優秀で誰にでも優しく接する少年だった。

 

 

その夜、オファニモンから連絡があり、堕天した完全体のデジモンが現れたので、至急浄化に向って欲しいと言う、いつもと変わらない物だった。輝二は、なんの疑問も抱く事無く、光の戦士へと変身して現地に向う、オファニモンが堕天したデジモンがデジタルワールドから、現実の世界に行く際のゲートをコントロールし、今回も無事人気の無い、場所に飛ばす事に成功した。

 

反応のあった地点に行って見ると、どうやら、オファニモンの計らいで飛ばされた人気の無い場所とは・・・目の前のサッカー場らしく、中から反応があった。さすがにこの時間帯になると、誰もいないらしく、競技場は闇に包まれていた。輝二は競技場の鍵の掛かった門を飛び越え侵入すると、観客席からサッカー場の真ん中に降り立つ

「お前が光の闘士か・・・・もう一人闇の闘士がいるって聞いたが・・・いねえようだな・・まあ良い・・・お前しかいないようなら、二度手間になるが・・・まあ、しょうがねえ」

輝二は声のした方に目をやると、サッカーゴールの上に、座り込んでいる黒いワーガルルモンの姿が目に入った。

 

「悪いが、俺を今までお前が戦ってきたデジモン如きと一緒にしない方が良いぞ、クックックッ」

黒いワーガルルモンは、ゴールの上から大きく跳躍すると、輝二から10歩程離れた場所に降り立ち、下卑な笑いを浮かべながら言う

(こいつから感じられる力・・・・完全体だな・・・)

輝二は、あれから、自分がどれだけ強くなったかを試すには良い機会と思い、光の剣を出すと、相手の出方を伺った。

 

相手のワーガルルモンも、輝二を見据え隙を伺う

輝二とワーガルルモン、僅かな間、沈黙が訪れるが

「カイザーネイル」

突如ワーガルルモンが打って出た。斜めに打ち下ろされるワーガルルモンの右爪、輝二は身を沈めて避わすと、右手を振り切り、隙だらけになったワーガルルモンに、大きく剣を振りかぶり切り掛かる。ワーガルルモンは輝二の剣を振り切った右手を手元に戻し、その手で受け止める。ワーガルルモンの腕の半ばまで輝二の剣の刃が入る。

「クッ・・・」

ワーガルルモンは顔を歪めるが、空いている足で輝二に向って蹴りを入れて反撃してくる。輝二はワーガルルモンの蹴りを、剣を握ってない左手でガードすると同時に、後方に飛び衝撃を逃がした。

 

(行ける)

密かに輝二は、そう感じた。完全体の動きを数日前とは違い、自分はキチンと見切れている事を手ごたえとして感じた。

 

それから数分、二人は互角の攻防を続けた。

 

「ほう、少しはやるようだな」

ワーガルルモンは、自分と互角に打ち合う輝二を見据えると、素直に賛辞を送る。

輝二もワーガルルモンを真っ直ぐ見つめ視線だけで答えた。

「行くぞぉ〜!!」

ワーガルルモンが大声で叫ぶと、地面を蹴ると輝二に向って疾走した。走る速度をプラスして

「カイザーネイル」

先ほど痛めた右手で再度必殺技を繰り出してきた。輝二も光の剣に意識を集中させると、光の剣が輝きを増す。輝二も負けじとワーガルルモンに向って疾走する。

 

輝二とワーガルルモンの技がぶつかり合うと思われた。その時、二人の間に割って入った人物がいた。

 

「・・・こんな奴に手こずってどうすんの?」

輝二に闇のエナジーを注ぎ込んだ白い仮面の男が現れていた。仮面の男は持っている二本の剣の片方で輝二の剣を受け止め、ワーガルルモンの爪をもう片方の剣で受け止め、平然と言い放つと、ワーガルルモンを一睨みする。

ワーガルルモンは突然現れた男の瞳からは、底の見えない闇を感じ背筋が凍り付いた錯覚を覚えた。本能で危険を察知すると大きく後ろに飛び退り、仮面の男から距離を取る。

 

仮面の男はワーガルルモンから、視線を外し、輝二を暫くの間ジッと見つめ

(最初会った時にも思ったが・・・やはり・・・・俺と似ている)

自分の考えに仮面の男は浸っていると、自分を眼中に無いと言わんばかりに無視する仮面の男に、ワーガルルモンは男に対する恐れの余り、忘れていた怒りがふつふつと自分の中から沸き立つのを感じる。

「コラァ!貴様何者だぁ〜!脇からシャシャリ出て来やがってっ!!」

仮面の男は顔だけワーガルルモンに振り返り一睨みすると

「ウルサイ・・・・・少し黙っていろ」

仮面の男の声と瞳から、再び底の見えない闇を感じたワーガルルモンは、全身が総毛立ち動けなくなった。

(光と闇は、表裏一体・・・・まさか・・・俺の双子の弟だから・・・光・・・なのか?・・・)

 

考えに浸っている仮面の男に

「ウオオオオオオッ、カイザーネイルッ!!」

ワーガルルモンが襲い掛かった。だが、仮面の男は、眉一つ動かさず、自分目掛けて振り下ろされるワーガルルモンの方に向き直ると、ワーガルルモンの右手の爪を、自身の左手の剣で受け止めると、空いている方の右手の剣でワーガルルモンの眉間を刺し貫くと同時に刺さった剣を捻る。ワーガルルモンは黒い粒子となり消滅した。この間僅かに数秒の遣り取りだった。

 

仮面の男は、黒い霧となったワーガルルモンを剣に取り込み浄化しながら、輝二の様子を横目で気付かれない様に伺いつつ、先日他界した祖母の言葉を思い出す。

(こいつがお祖母ちゃんの言っていた俺の弟なのか?・・・・・)

 

輝二は突如現れ、一瞬で敵を葬ってのけた仮面の男に、輝二は呆然とするが、すぐにワーガルルモンとの勝負に横槍を刺された事に、腹を立てる。

「おいっ!なんの真似だ?俺の獲物に手を出して、誰が助けろって言った?」

「あっ・・いや・・ごめんよ」

仮面の男は素直に微笑を浮かべ謝ると、輝二はその素直な対応に一瞬呆然となると

「次からは気を付けろ」

仮面の男から顔を背け、決まり悪そうに悪態を言うしか出来なかった。

「それじゃあ、またね・・・」

仮面の男はそう言うと、どこかへと消えてしまった。

「おっ・おいっ!・・・」

輝二は慌てて声を掛けるが、男の気配は既に無く、色々と聞きそびれてしまった。あの男は普段何をしているのか?歳はいくつなのか?等々のあの男に対して気になる事は沢山あったが、今日も結局聞きそびれてしまった。

 

(俺が人に興味を持つなんてな・・・いくら闇の闘士で、俺と同じ役目を背負ってるって言ったって・・・所詮は他人なのに・・・)

輝二は考えても仕方ないと思い、家路へと急いだ。そんな輝二の後を尾行している黒い影があるとは知らずに・・・

 

輝二は家に着くと、今日は普段に比べデジモンとの戦いが早く終わったので、ベッドに寝転がり、色々と考えを巡らせていた。もっと強くなるにはどうすれば?と考えて見たりもしたが、やはり、頭の中はあの白い仮面の男の事が大半を占めている。あの男は一体何者なのか?自分とそう変わらない歳に見えるが、一体いくつなのか?等々を考えていた。

 

そんな輝二の家の前には、あの白い仮面の男が気配を消し、誰にも悟られる事無く立っていた。

男は自分の手にしたメモと輝二の家を見て、男の仮面から見える瞳に複雑な感情が浮かべる。

(あいつが・・・・源輝二・・・俺の・双子の弟・・・)

仮面の男の正体・・・それは輝二の双子の生き別れた兄・・・木村輝一だった。

 

輝一は、その場で拳をきつく握りしめ、暫くその場に立ち尽くす。輝一は自分が輝二の中に注ぎ込んだ闇のエナジーを辿り、輝二を尾行したのだ。もし人違いなら人違いで終わらせ、祖母より渡されたメモの住所を訪ねれば良いだけの話、だが、不安とも何とも言えない予感に駆られ、輝二の後を尾けてみると、輝二の帰り付いた家は、渡されたメモに書かれた物と住所と表札が同じだったのだ。輝一はすぐにその場を後にした。