星の光と星の闇・3

目の前で、オオクワモンが黒い粒子となり、男の周りで黒い霧となって立ちこめる。

「乱されし者よ・・闇の中で眠るがいい」

仮面の男は、霧の中に立ち尽くし、二本の剣を頭上で交差させ掲げると、オオクワモンだった黒い粒子が、仮面の男の持つ、赤い刃の剣に吸い込まれて行った。

「ふう〜、浄化完了」

仮面の男はそう言うと、輝二へと歩み寄って来た。

「さあ、行こう、騒ぎに駆けつけて人が来ると面倒だしね」

「あっ・・・ああ」

輝二は仮面の男に頷くと、一歩右足を踏み出した。

 

だが、その瞬間、急に右足の足首から痛みが走り力が入らないのに気付くと、顔を歪め地面に膝を付ける。

「大丈夫か?」

仮面の男が僅かに慌てた様子で輝二の傍に駆け寄り跪く、

「あっ・・ああ・・大丈夫だ。自分で立てる・・・」

そう言って、輝二は右足に力を入れ、立ち上がろうとするが、右足首を痛みが走り抜け、力が入らず、輝二は再び顔を苦痛に歪めると、再び地面に座り込んでしまう、どうやら、先程のオオクワモンとの戦いで気付かない内に痛めていたらしい

「どうやら、大丈夫じゃないようだね・・・・」

「少し休んだら、痛みも引くだろ・・俺に構うな」

輝二は、その場に座り込んだまま、視線を仮面の男から反らすと、無愛想に言い放った。

「う〜ん、でも、もうすぐ人が来ると思うけど、どうする?」

「何っ!・・・・」

 

仮面の男に言われて、輝二は辺りの気配を探ってみると、確かに、遠くから車の走る音が聞こえてくる。公園の木々に囲まれた広場だが、生い茂った木々の間から、パトカーと思われる車両のランプが点滅してるのが見えた。しかも、この公園の入り口付近に停車し、中から警察官と思われる人間が3人程降りて来た所だった。

「なっ・・・おっ、おいっ!」

輝二の視線が公園の入り口に行ってる最中に、仮面の男は輝二を突然抱き上げた。

「その足じゃ動くのは無理だろ・・・この場から離れたら、すぐに降ろすから、大人しくしててくれないかな?」

「ちっ・・・早くしろ」

輝二は、軽く舌打ちすると、小さい声で答えた。

 

仮面の男は、輝二を抱き上げたまま、一足飛びに公園の木々の一本の枝に飛び移ると、木から木へと目にも止まらぬスピードで公園を飛び出すと、あっと言う間に、騒動のあった場所から、大分離れた住宅街まで着いてしまった。高い土地の上にある住宅地の中でも一際眺めの良い、家の屋根の上で仮面の男は輝二を降ろす。

「とりあえず、ここまで来れば大丈夫だね、足は大丈夫?」

「あっ・・ああ」

輝二は自分の足で屋根の上に右足を庇う様にして立つと、仮面の男と初めてゆっくりと向かい合った。

 

「それで、お前の目的はなんだ?どうして俺に近付く」

先程助けられた事と自分との実力差を実感し、輝二は冷静に問い掛ける。

「だから、言っただろ、君を助けるのが俺の役目だって」

仮面の男は最初会った時と変わらず、落ち着きのある穏やかな声で答える。

「じゃあ、何が目的で俺を助ける?」

「ん〜〜・・・・・そういうのは余り考えて無かったなぁ〜・・・う〜ん」

男は顎に手を当て唸りながら考えている様子だが、輝二としては予想外の答えについ呆然となってしまった。

 

「おいっ!ふざけるのもいい加減にっ!」

だが、輝二は男のなんとも言えない余裕のある態度に、初めて会った時から感じていた苛立ちもあり、男を怒鳴りつけようとしたが、不意に男が自分の顔を、輝二のすぐ目の前に迫らせ、真っ直ぐに見詰めてきたので、仰天し押し黙ってしまった。男はその隙を見逃さず、

「それじゃあ・・・・こんなのはどう?」

言うと同時に、輝二の白い手袋に包まれた左手首を捕え自分の方に引き寄せ、空いている方の手で輝二の顎を抑えると、そっと自分の唇と輝二の唇を重ね合わせた。

 

余りに突然の事に輝二は、両目を大きく見開き、仰天していると、男の唇が自分の唇から離れて行った。

「助けたお礼に、君の唇・・・・って事で」

「!!!!!!っ・・・・って俺は男だっ!!!」

「知ってるよ、それに俺も男だよ」

突然の事に、冷静さを完全に失い輝二は先程、男に言ったばかりの事を、もう一度口にするが、男は平然と自分が同姓である事を告白する。

 

「!!!じ、じゃ、じゃあ、なんの真似だ!いきなり・・・き・・き・き、キス・・するなんて?」

輝二は短い間に起こった突然の余りの出来事に頭がパニックを起こし、キスと口にする時は、耳まで顔を真っ赤に染め、俯いてしまったが、なんとか男に問い詰める。

「まあ、良いじゃん、俺は君を助けるのが目的、これだけは本当だからさ」

「まっ、まあ、・・・現に今回は助けてくれたからな」

輝二は、頬を赤く染めた顔を男から背けて小さい声で言うが、相変わらず男は余裕のある態度を崩す様子は無いので、輝二は嫉妬の様な感情を男に抱いた。

「信じてくれた。・・・そう思って良いのかな?」

「あ・ああ・・とりあえずは・・な」

輝二は、依然、男から顔を背けたまま、拗ねた様に言う

 

「それじゃあ、前会った時に話して置こうと思ったんだけど、・君・・・このままじゃ、いずれ、デジモンに負けるよ」

「何っ!!」

突然言われた事に、輝二は驚きを隠せなかった。

「ここの所、堕天したデジモン達は、ドンドン強く凶暴になってるからね、今のままじゃ、君必ず負ける時が来るよ、さっきのデジモンに楽に勝てない様ならね」

「・・・・・・・・」

事実を突きつけられ、押し黙る輝二、確かにこの男の言う事は最もだった。自分一人で、あのオオクワモンを倒せと言われたら、無理だと言わざるを得ない、オファニモンもここの所、堕天するデジモン達がドンドン凶暴になってると聞いている。もし、また完全体の堕天したデジモンが現れ、自分一人で浄化しなくてはならないとしたら、その事を考えると、輝二は答えが見つからなかった。

 

そんな輝二を見て、男は輝二の顔前に二本の指を突き立てると口を開いた。

「強くなる方法は二つ、一つ、地道に剣の腕を磨いて強くなる事、まあ、これは今の状況じゃ無理だと思うな、敵は待ってくれないし、時間が掛かりすぎるしね、そして、もう一つは・・・」

男は不意にそこで言葉を区切り、暫しの沈黙が訪れた。