星の光と星の闇・15
「ごほっ・・ごほっ」
輝二の前でうつ伏せに倒れている相手が再び口から血を吐いた。どうやら倒れた衝撃で仮面が外れたらしく、自分とそっくりな顔のそばに落ちていた。相手の傷は誰がどう見ても命に関わるものなのが明らかだったが、相手はそれでも両手を地につけて、立ち上がろうとしたが重傷の身では立てる筈も無く、傍らにある柱に背を預けるように今度は横たわった。
「に・・人間なのか?」
余りの事態に輝二の頭は冷静な判断ができる状態ではなかった。今まで敵と思っていた相手が自分とそっくりの顔をしていた。闇の力の体現者である相手、そして光の力の体現者である自分。関係が無いとは思えない。心のどこかで何か大きなものが引っかかっていて、胸が凄く痛み上手く言葉にできないでいるものが、胸と頭の中を痛みとなって駆け回る。
「ああ」
輝二を真っ直ぐ見ながら答える相手の口の端からは血が滴り落ちていた。
柱に背を預けている相手に対して、僅か二歩ほどの距離を置いて立っている輝二は相手を見下ろす形になっていた。その場を沈黙が支配するが、その沈黙を動かしたのは相手の方だった。
「うっ・・・ぐふっ」
相手が再び苦しげに咳込み、血を口から吐いた。
「おっ、おい!」
輝二は咄嗟に相手のそばに跪いていた。
「どうして・・俺の心配を?」
「そ・・それは!・・・」
答えに窮する輝二を見ている相手の表情はどこか穏やかだった。
(我ながら意地が悪いな・・・でも、これで良かったのかも知れない・・・輝二の事を殺してたら・・・俺はもっと後悔してた筈だ・・・)
輝二が答えられず、戸惑っているのを見て、輝一の口元に自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「さあ・・・早く止めを刺すと良い・・今なら・・君でも俺に勝てるよ」
「なっ!」
重傷の身でありながら、口元に笑みを浮かべ、どこか余裕の表情の相手
(そうだ!こいつはダスクモン!俺の敵だ)
輝二の剣を握る右手に力が篭り、そっと立ち上がり剣を振りかぶる輝二を見て、どこか満足そうな顔をして相手は目を閉じた。
(これで良い・・・今更どんな顔をして輝二に兄弟だなんて名乗り出る事が出来るって言うんだ)
輝一の葛藤を知らず輝二が剣を振り下ろそうとしたその時・・・
輝二が握っていた光の剣が突如として、眩い光を放ち始めた。
「彼を殺してはいけません」
剣の光に呼応するかのようにオファニモンの声が聞こえてきた。
「彼は闇の騎士ダスクモンとして、あなたの敵となりましたが・・・あなたと一緒に戦った闇の闘士でもあるのです。・・・彼を殺してはいけません」
「なんだって!?」
驚きと共に相手の顔と手の中で強烈な光を放つ光の剣を交互に見ると、相手は居心地が悪そうに顔を俯けてしまった。
言われてみれば、闇の闘士がしていた目元だけを覆う白い仮面を相手の顔に想像上で重ねてみると、確かに似ているのが分かる。輝二の頭が僅かに冷静さを取り戻したのを察してか、オファニモンは再び話し始めるが
「彼・闇の闘士・木村輝一・は」
突如、強力な光を放っていた光の剣の光が強弱を持つようになり、その放たれる光の強弱と呼応してオファニモンの声も途切れるようになってきた。
「や・やめろオファニモン・・言うなっ」
相手が苦しげに光の剣を通じて、語りかけてくるオファニモンに訴える。その訴えが聞こえてかは定かではないが、僅かにオファニモンが躊躇した様子だったが
「・みなも・輝二く・あなた・生き別れ・双子の兄なの・す」
そう言い終ると、光の剣は普段通りに戻り、辺りに静けさが戻ると、カシャンっという音と共に光の剣が輝二の傍らに落ちると、同時に輝二は輝一の傍らの地面に両膝をついた。
「そう・・なのか?・・・今のオファニモンが言った事・・・俺と君が兄弟だって言うのは・・・」
自分の右側に座る輝二から目を背けるように、輝一は左下を向くように苦しげに顔を俯け黙りむ。
「何か言ってくれよ!」
ピクッと相手の肩が揺れたのが分かった。
「・・・本当だ」
俯けていた顔を真っ直ぐ前に向け、視線だけを輝二に向けると、ボソっと呟くように輝一は告白した。
「俺は輝二・・・お前を憎み妬んでいた・・・だからケルビモンの手下に望んでなった・・・それだけだよ」
輝二には相手の瞳から光沢が消えたように見えた。そして突き放すように冷たく言い放たれたが・・・
「・・・・かった?」
「えっ?」
輝二が何かを言ったのは分かったが、余りに小さくて輝一の耳までは届かなかった。
「じゃあ!どうして今まで殺さなかった!俺を殺す機会は何度もあった筈だ!それに今だって殺す事が出来たのに何故殺さなかったっ!」
「そ・・それは・・・」
胸の傷よりも痛い所を疲れ、苦しげな表情を浮かべ輝一は再び俯いた。
「答えろ!輝一!」
名前を呼ばれた事で、輝一は再びピクリっと肩を震わせるが、今度は顔を上げて、真っ直ぐに輝二を見ると
「い、今更・・・こんな事・・言っても信じてもらえない・・っと思うけど・・・お、俺・・輝二の事・・・確かに・・・憎んだり・・妬んだり・・した・けど・・・本当は・・・輝二と・・・話が・したかったんだ・・・」
輝一は話しかけながら、輝二の頬に右手を伸ばす。
「輝二は・・・優しい奴なんだな・・・こんな俺の・・為に・・・」
「えっ?」
輝二は言われて始めて気付いた。自分の目から涙が出ている事に、輝一は輝二の頬に添えた右手の親指で輝二の涙をクイっと拭いとる。
「今まで・・・傷つけて・・・ごめん」
相手の顔を見ると、相手も両目から涙を流していたが、穏やかに微笑むと、頬に添えられていた手がガクっと地に落ち、相手の顔もガクリっと落ちた。
「お、おいっ・・・」
あわてて輝二は相手の両肩に手をかけて揺さぶるが返事は無く、前後に揺さぶられるに任せて体が揺れるだけだった。
「兄さーーーーーーん!」
(ありがとう輝二・・・こんな俺でも兄さんって呼んでくれて・・ダメだ・・もう意識も保てないや・・・)
薄暗い神殿の中に輝二の声が木霊した。その声は神殿の外にも聞こえるほど大きなものだった。
あとがき・はい、今回はここで終わります。このシーン実は非常に書きたくてしょうがないシーンだったんです。さて、いよいよこのお話もクライマックスに近付いていますね。