星の光と星の闇・13

 漆黒の闇が支配する空間の中で黒い炎が燃えていると錯覚をしてしまう程に、巨大な闇のエナジーを身の回りに纏う者、ダスクモンが一人立っていた。ダスクモンの顔を覆う仮面の目元に辛うじて入っている横に長い切れ目からは光沢のない感情の欠如した瞳が覗いていた。

 

「ダスクモンよ」

漆黒の闇の中からどこからとも無く、激情の混ざった声がダスクモンに語りかける。

「光の闘士がバラの明城に近付いてきている。殺せ殺すのだ」

「はっ」

ダスクモンはその場で声のした方に跪き答える。ダスクモンの返答を確認すると、闇の中にあった声の主の気配がなくなったのを確認してからダスクモンは立ち上がる。

「光の闘士・・・殺す」

その一言を呟くとダスクモンの姿がその場から掻き消える。

 

その頃、輝二はダスクモンの事が気にかけてはいたが、オファニモンを救出するという光の闘士としての目的を思い出したのと、ダスクモンがケルビモンの配下であるならば、バラの明星を目指していれば、また戦う機会はあるそう思い、一路ポコモンとネーモンを伴い、バラの明星を目指していた。

バラの明星に近付くに連れ、辺りは薄暗くなっていき、絶えず空に薄暗い暗雲が立ち込め、大きな岩が所々で隆起している荒れ果てた大地をバラの明星を目指し歩いている。

 

そんな荒れ果てた大地の上を歩いていると、突如として突風が吹き荒れた。明らかに自然な風ではなかったので風の吹いてきた方を見ると、大きな黒い鳥が滑空してきた。その鳥の背にはダスクモンの姿があった。ダスクモンは鳥の背から飛び降り、輝二から十歩ほど離れた場所に降り立った。

 

「光の闘士・・・貴様を殺す」

ダスクモンは輝二と対峙すると、いつも持っている漆黒の剣の先を輝二に向けて感情の感じれない声で言い放つ。

 

今、自分が気になってしょうがない相手が目の前に降り立った事で、輝二は今までダスクモン相手に敗北を重ねていたが、今日こそは勝つと言う決意を胸に光の剣を出現させる。

「ポコモン、ネーモン下がっていろ!」

自分の背後にいるポコモンとネーモンがトコトコと歩いて離れたのを確認すると、ダスクモンに顔を向け直し

「来い!ダスクモン」

 

輝二に名前を呼ばれると同時にダスクモンは大地を蹴って、十歩程離れていた距離を一気に縮めると、輝二の喉元に突きを見舞う。無駄な動きの一切廃され、洗練された技術と脅威の速度を伴った攻撃だったが、輝二もここ数日の稽古の甲斐もあってかその攻撃を見極める事が出来た。喉元に飛んできた突きを左に一歩ステップを踏んで避わすと、自分の右手にある光の剣を左から右へ相手の顔を狙って薙いだが、ダスクモンは輝二の持つ剣の持ち手よりも更に内側まで踏み込み、輝二の攻撃を無効化すると、同時に輝二の腹部に膝蹴りを入れた。

 

「かはっ」

その蹴りは輝二の肺から酸素を一気に搾り出し、体をくの字にする程激しいものだった。何とか体勢を立て直そうと、左手をお腹にやりながら、右手の剣だけは手放さずに距離を取ろうと、大きく後ろに跳躍するが、着地するや否や一気にダスクモンが距離を詰めて来た。

 

輝二の首を刎ねんと、左から右へ剣を真横に薙いで来たのを何とか剣を起てて受け止めるが、次々と連続して襲い来るダスクモンの漆黒の刃の前に一歩また一歩と後退を余儀なくされ、二の腕や太ももに小さな傷が増えていき、ついに背後を大岩に塞がれる形になってしまった。

 

自分とダスクモンの距離は僅か2m足らず、一歩踏み込んで剣を振り下ろすなり、横に薙ぎ払うなりすれば、相手の技量だったら自分に致命傷を負わせる事が可能な距離だ。

輝二の白い手袋に包まれた手には汗がじっとりと滲み、相手の余りの圧力と自分との実力差を痛感して肩で息をしながらも、相手の次の挙動を見逃さないように、剣を構えダスクモンを凝視する。息を切らせる輝二を前にダスクモンは、剣を持っていない方の左手の平をおもむろに突き出した。すると、ダスクモンの左手から濃厚な暗い紫色の膨大な量の闇のエナジーが放出された。膨大な量の闇のエナジーは濁流の如く輝二に襲いかかり、輝二は背にしていた大岩に縫い付けられる。

 

「ぐああああっ!」

闇のエナジーが自分の体の回りを取り囲み、岩に体を縫い付けられ苦悶に顔を歪めながらも、薄く瞳を開けて何とかダスクモンを見ると、手を伸ばせば届く距離に居た。

(何故殺さない?こいつどういうつもりだ?)

声にする事は出来ず、苦悶の声を上げながらも思案する輝二だが

「シネ」

感情の無い声がすると、ダスクモンがゆっくりと剣を振り上げたのが目に入った。輝二は咄嗟に目を瞑るが、剣が振り下ろされてこなかった。再び目を開けると

「コ・ウ・・・ジ」

途切れ途切れに自分の名を呼ぶと、ダスクモンが剣を振り上げた状態のまま静止していたが、やがて、振り上げた剣を小刻みに震えさせ、それに呼応するかのように体全体が震えだした。

 

ガシャンッ!

 

突如、ダスクモンは剣を落とし

「ぐああああああああああああああっ!」

仮面の上から両手で頭を抱えて苦しみだした。

「な・・なぜ・・・俺の名前を・・・・知って・・るんだ?」

輝二は苦痛に顔を歪めながらもダスクモンに問いかけると

「ぐああああああああああああああああああああああああっ!」

何に苦しんでいるかは分からなかったが、何とか脱出しようと、自分の体の中の光のエナジーを集めようとするが、ダスクモンの操る闇のエナジーに対抗できるだけのエナジーを集めるには全力を尽くす必要があり、時間も掛かるがやるしかないと決意し、エナジーを集めようとしたら、ダスクモンが荒い息を吐きながら、立ち上がり輝二に近寄ってきた。

 

(万事休すか)

 

輝二は死を覚悟したが、ダスクモンの手には剣が握られていなかったが、ダスクモンの右手がゆっくりと輝二の首の前まで持ち上がったのを見て

(首を絞める気か?)

だが輝二の首の上に添えられた右手には力が込められる気配が無かった。

「お前は何者だ?光の闘士」

言うや否や、相手の右手から再び闇のエナジーが放出されるのが分かったが、先ほどの濃い紫色のものではなく、今度は半透明上の黒い闇のエナジーが無数の蛇のようにうねり、輝二の顔に襲い掛かってくる。闇のエナジーにより形成した半透明な帯が自分の頭の中に入ってくる。そして自分の頭の中にある考えや思い出がドンドンと読み取られていくのが分かる。

 

「輝二・・彼女を母さんと呼んでくれないのか?」

部屋の中で父親が自分に問いかけてきた時の様子が写る。義理の母さんに上手く接することが出来ない、自分が抱えている大きな悩みだった。

 

確かに自分は裕福な家庭に育っているとは思ってはいた。大体どの家と比べても自分の家の方が大きく、そして父親も詳しくは知らないが大きな会社の重役だという事を知ってはいたが、いつもどこかで満たされないものを感じていた。心を許せる人、本当に心を開いて接する事ができる人がいないという事を、ずっと悩んでいた。

 

「ぐあああああああああああああっ」

自分の頭の中を読み取っているダスクモンが突如苦しみだした。右手は依然として輝二の首元に置かれたままだが、空いている左手で仮面ごしに左目の上を押さえるように呻いているのを見て、冷静になると、段々と腹が立ってきた。

自分の頭の中を、考えを、見られている事を・・・そして僅かに自分の周りを覆う闇のエナジーが弱まったのを感じた。

 

「うおおおおおおおっ!」

輝二は気合の声を上げるや、自分の中の光のエナジーを集め、自分の周りにある濃い紫色の闇のエナジーを打ち払ったと同時に右手を掲げ、先ほどダスクモンに叩き落された剣のある方へ右手の平を向けると、一瞬の内に右手の中に光の剣が収まっていた。

「はっ」

ダスクモンは輝二が自分の闇のエナジーを打ち払った事に気付いたが、輝二の攻撃の方が僅かに早かった。輝二はダスクモンの顔を切り裂かんと、右手の剣を左下から右上に斜めに振り上げると、普段だったら完璧に避わす事も出来たのだが、今はダスクモンが精神的に不安定な状態だった為、完全に避ける事が出来ず、仮面を切り裂かれてしまった。

 

カランカランっという渇いた音と共に、ダスクモンの切り裂かれた仮面が地面に落ち、仮面の下にある顔を、自分と全く同じ顔を見てしまった。

 

「お・・・お前は?」

ダスクモンの仮面の下にあった素顔を見て、驚愕する輝二に対し

「くっ・・・」

相手は感情の無い瞳を向けながら歯を食いしばり、右手を輝二に向けると、再び紫色の闇のエナジーを輝二ぶつけてきた。咄嗟の事に今度は輝二の方の反応が遅れ、闇のエナジーの塊をまともにくらってしまう。

 

「ぐあっ」

 

自分のすぐ後ろにあった岩肌にまともに叩きつけられ、今度は前方に倒れこむように地に両手と両膝をつける。あわててダスクモンの方を見ると、ダスクモンは空に右手を掲げており、ダスクモンの上にダスクモンが乗ってきた巨大な黒い鳥が現れていた。ダスクモンが下りてきた鳥の足を掴むと、黒い鳥は翼を大きく羽ばたかせ鳥は空高く舞い上がり、彼方へと飛び去ってしまった。

 

「ま、待てぇ!」

咄嗟に輝二は叫ぶが、鳥の足に捕まり遠くへと飛び去るその背中を見て

「お前は何者なんだ?・・・ダスクモン」

一人呟いた。