星の光と星の闇・12
「まさか、デビモンを倒すとはな・・・」
相も変らず身に暗黒のエナジーを纏い、賛辞を送っているようだが、ダスクモンの声に感情の起伏は見られなかった。
「久しぶりだな・・・前回のようにはいくとは思うなよ」
輝二はデジタルワールドに来てから、今日この日までに野宿の合間や時間を見つけては剣の稽古をしていた。
それに先ほどデビモンとの闘いを通じて更に強くなった自信がある。
勤めて冷静に振る舞いダスクモンに手にした剣の切っ先をダスクモンに突きつけ
「もう一度勝負しろ!」
声の内に堅い絶対に勝つという勝利の決意を込めて言い放つ
「少し・・・・相手になってやろう」
答えるダスクモンの声は、相変わらず感情の欠片も感じられない物だった。
ダスクモンは自身の纏ったエナジーを手に集めると、一本の漆黒の剣を出現させ、剣を持った手をだらんと下げ、構えらしい構えを取らなかった。自分の力を軽視していると思われ輝二は、先ほどのデビモンとの闘いのダメージが残っているのを、胸の内に抱いた静かな怒りにより完全に忘れ去り、ダスクモンへと一気に距離を詰め、自分の持てる最速の突きダスクモンの喉元目掛け放つが
ガキンッ
金属がぶつかる音が一回だけ響くと、弾き飛ばされた剣が石畳の床に突き刺さった。輝二の持っていた光の剣は輝二から10歩程離なれた場所に突き刺さり、輝二は剣を握っていた方の右手首に痺れ走り、剣を握っていない方の左手で右手首を押さえるが、その痛みよりも今は首筋に突きつけられているダスクモンの漆黒の剣が、まるで首筋に薄い氷を押し付けられているような錯覚を覚えさせられた。
あの瞬間、ダスクモンは自分の喉元目掛けて飛んできた突きを、だらんと無造作に下げていた剣を斜めに振り上げ、輝二の剣を弾いて防いだだけだった。
たったそれだけの動作にも関わらず、剣の軌道は全くの無駄が排された洗練された技による物で、喉元に迫った輝二の剣を防御するのと、輝二の持っている光の剣の刃の根元の最も持ち手に近い部分を、己の剣で打ち上げる事により、輝二の剣の軌道を自分の喉元から外すのと、輝二の手から剣を取り落とさせるという事を、その場から一歩も動かずに目の前でやってのけた相手に、初めて闘った時に感じた実力の差が今も全く縮まっていない事を輝二は頭の片隅で考え
その悔しさに輝二は歯噛みした。
「殺すなら殺せ」
「弱いな・・・」
輝二の挑発に対し、ダスクモンは一言そう言うと、剣を黙って引いた。
「ぐっ・・・・」
輝二は、力一杯奥歯を噛み締めると、無手のままダスクモンに殴りかかったが、アッサリと避わされると同時に足払いを受け、地面に前のめりに倒れこみ、倒れた状態で振り返ると、顔前にはダスクモンの剣の切っ先があった。
「そんなに死にたいのなら・・殺してやろう」
ダスクモンが剣を握っていない左手の平を輝二に向けかざすと、輝二の体を黒い煙のような闇のエナジーが覆う、すると輝二は体に圧縮して何百キロという重量を得た空気が自分の上に乗っているような圧力を感じ
「くはっ・・・ぐああああああああぁぁっ・・・」
肺から空気を搾り出されるが苦しさに声を上げる。苦痛に顔を歪めながらも、目の前のダスクモンを見ると、感情の無い黒瞳で輝二を見下ろし、剣を高く振り下ろそうとしている所で、間近に迫った死から咄嗟に瞳を堅く閉じる。
「ああ〜、まずいハラ〜!!!!」
「どうすんの?」
慌てに大慌てのポコモンに対し、落ち着いているのか、慌てると言う事を知らない程、暢気なのか分らないネーモンが答える。
「だぁ〜、どうするハラァ〜!!ワシらが行っても、足手纏いになるだけじゃぞい!あああ〜〜!!・・・ん?なんじゃぞい、この光は?」
ポコモンはパニックに陥りながらも、自分の近くで光を発している物がある事に気付き我に返ると、光の発信源に駆け寄ると、それは輝二がいつも肌身離さず持っているデジヴァイスだった。先ほどのデビモンとの闘いの最中に落とした物だった。
そのデジヴァイスはポコモンが駆け寄ると、そっと地面から浮かび上がり、輝二と輝二に止めを刺そうとしているダスクモンの二人の方に光を発している画面を向けると、そこから一条の細い光がダスクモン目掛け飛んでいった。
デジヴァイスの画面から伸びた光が、ダスクモンの眉間に当たると、ダスクモンは剣を手放し
「ぐあああああああっ」
自分の両手を自分のコメカミに当てて体をくの字に曲げて苦しみ出した。
「思い出すのです。・・・・・・自分が何者なのかを・・・」
そして、ダスクモンが苦しみ出したのに合わせるかのように、諭すようなオファニモンの声が画面から発せられる。
「あああああああああぁぁ」
尚もダスクモンは両手をコメカミに当て片膝を地に付け、顔を俯けて苦呻の声をあげながらも
「ぬおおおおお!!!!」
ダスクモンは輝二に向けていた左手を話し輝二のデジヴァイスに向け、手の平から黒い闇のエナジーを放出し、輝二のデジヴァイスにぶつける。
輝二のデジヴァイスは地に落ち、光を発するのをやめた。
「はぁはぁはぁ」
ダスクモンは激しく息を切らしているが、立ち上がると、確かな足取りで歩き出し、輝二の傍から10歩程離れた場所で、空間に黒い穴を開けると、その中に一歩足を踏み入れた瞬間
「ま・・・待てっ・・っぅ・・・どうして・・・殺さない?」
仰向けに倒れていた輝二は、立ち上がろうとしたが無理だったので、なんとか四つん這いの姿勢を取りながらも状態を起こすが、先ほどの攻撃で痛めた左の脇腹に右手で持って行き、左手を地面につけ上体を起こすと、輝二はダスクモンの背に声を掛けたが、ダスクモンは一瞬だけ立ち止るが、すぐに何事も無かったかのように、振り返る事無く、空間に開いた穴の中に入ると、穴は一瞬で小さくなり消滅した。
「くそっ!」
輝二は悔しさでその白い手袋に包まれた手を握り締めると地面を殴りつけた。