星の光と星の闇・10

日も暮れて辺りを闇が包んだ時間、国境の街の閉ざされている大きな門の前に門番として、ムシャモンが左右に立っている。

だが、そのムシャモンの目は赤い鈍い輝きを持っており、暗黒デジモンである事が伺える。

 

この大きな門から、街道として石畳の道が敷かれているが、その街道の左右は深い森になっており、夜ともなると森の中は真っ暗で森の中を伺うことは出来ない、不意にその森の藪の中から、バキッと乾いた木の枝が折れる音がした。

「「!」」

その音に気付いた二体のムシャモンは、目配せしあうと一体が、音のした藪の方へ行こうと、一歩踏み出し歩き出そうとしたムシャモンの背後に音も無く、白いセーラー服に身を包んだ影が降り立つと、手にしていたサーベルでムシャモンの腹部を背後から刺し貫き、ムシャモンは黒い粒子となるが、その黒い粒子は刺さったサーベルの刃に吸収され、残った一体が輝二に気付くと、輝二は手にしているサーベルを投げナイフのごとく相手に投げつける。すると、サーベルは腰の刀に手を掛けたムシャモンの眉間を貫通し、やはり、黒い粒子となるが、その粒子も刺さったサーベルの刃に吸い込まれ、浄化される。

 

輝二は周囲を見回し、他に敵の気配が無い事を確認すると

「二人共良いぞ」

街道の脇の森の藪の方に声を掛けると

 

「輝二はん、すまないハラァ〜」

ポコモンが、すまなそうな顔をして頭を下げる。

「つい、ワシが不注意で枝を踏んでしまったんじゃ」

「あ、ああ、気にするな・・・それより・行くぞ二人共」

輝二は、すまなそうにしているポコモンに、曖昧な感情を浮かべるが、ポコモンの責任を追及せず、ポコモンとネーモンのそう言うと、門の方に歩き出した。

 

輝二は、一人でオファニモンの捕まっているバラの明星まで行こうとしたが、この世界については分らない事だらけなので、ポコモンとネーモンに着いて来て貰う事になった。ポコモンとネーモンもオファニモンを助ける為に、輝二の道案内を進んで引き受けてくれた。

 

それから、三人は二週間程かかったが、ここまでは何の問題も無く来れたのだが、ここから先は、ケルビモンの元から治めていた国の領土でもあり、警戒は厳重になっていると思うので、とりあえず、この国境の町は無許可で通過する事にした。

 

その頃、この街を統治するデジモンが住まう一番大きな館の中で、一体のデビモンが右手に持った人の頭程の大きさの水晶玉に映し出された輝二を見て、口元を三日月の形に歪めた。

「フフフ、とうとう来たか、光の闘士よ・・・貴様を殺して、この世界から光を取り除く事・・・・それこそが、ケルビモン様の願い・・・それがこうも早く敵うとは・・・フフフフ」

 

「二人共、急げ!」

輝二は走りながら、背後にいる二人に声を掛ける。

「分ったハラァ〜」

「待ってよぉ〜」

ポコモンとネーモンは各々の答えを輝二に返しながら、必死に前を走る輝二に追いつかんと短い足を懸命に働かせて走る。輝二達は今、最初入って来た門とは反対側のケルビモンの領地側に抜ける為の門を目指して、街の石畳で舗装された大通りを必死に走っているが、普段なら商店が乱れ建つ、この通りをデジモンが行き交うと思われるのだが、今はその影も無い位静かでゴーストタウンを思わせる。

「どこへ行こうと言うのだ?・・光の闘士よ」

「誰だっ!」

立ち止り叫ぶと、周囲を警戒する輝二

 

「ふふふ、どこを見ている?」

正面から声が聞こえたので、正面に向き直ると、輝二から10歩程先の何も無い空間に黒い穴が開いたと思ったら、中から輝二の身長の倍はあるデビモンが現れた。

「何者だ!?」

輝二が声も露わに叫ぶと

「ふふふふ・・・私の名はケルビモン様の三将軍が一人デビモン・・・そしてこの街の統治を任されている・・・光の闘士よ、ここでお前を始末すれば、ケルビモン様は大いにお喜びになる。悪いが死んでいただく」

デビモンの冷酷な響きの声で囁かれる言葉を聞き、輝二も表情を固くし相手の出方を伺う

「・・・行くぞ」

デビモンは言うと同時に鋭い爪の着いた右手の五指を輝二に突き出してきた。輝二は石畳の路面を蹴ると、デビモンの右側に回りこみ避わすと、光の剣を出現させ、突き出した右手が伸びきって隙だらけになっているデビモンに切りかかる。

 

ガキンッ!

 

輝二はそこで驚きに目を見開くと同時に弾き飛ばされた。

「馬鹿なっ!」

なんとか宙で一回転して体制を建て直し、綺麗に着地するが、驚愕の表情を浮かべる。

「そのような力で、私を倒そうなどとは笑わせてくれる」

輝二は確かにデビモンの隙を突き、デビモンの伸びきった右手の根元の右肩に剣で切りかかったが、その剣はデビモンの体に傷一つつける事は出来ず、堅い金属の分厚い板でも打ったような感じだった。

 

(どうする?)

 

考えに浸ろうとした輝二に向って、デビモンの左手が今度は襲い掛かる。さっと身を屈めた輝二の頭上を通過したデビモンの左手が石材で出来ている建物の壁に巨大な穴を開ける。その石材の壁はデビモンの左手が刺さった場所だけ綺麗に穴が開いており、他に破壊の後が見られない所が、一見力技だけに見えるデビモンの攻撃に高い技量を伺わせる。

 

そして左手に続き放たれた右手が、デビモンの左手を避わし懐に入った輝二を迎撃する。大きく跳躍してデビモンの頭上を飛び越え宙で前宙をすると、体を捻りながらデビモンの背中を切りつけると、石畳に着地して、デビモンの背後を取る。

「ちょこまかと逃げるのだけはうまいようだな」

顔だけ輝二の方を振り返りながら言うデビモンに

「何ぃ!」

激行するが、今切りつけたデビモンの背中には傷一つついておらず、デビモンの何事も無かった様子に、輝二は内心かなりの焦りを抱いている。

(どうする?剣が利かない・・・・そ・・そんな馬鹿な・・・)

 

輝二には、今まで自分の剣技に自信があった。名も知らぬ闇の闘士やダスクモンと出逢うまでは、それでも大抵のデジモンは倒せる自信があった・・・・だが、今に来てその自信が激しく揺らいできた。

「貰ったぁ〜!」

デビモンは、輝二の心の動揺を見過ごさなかった。闘いの最中に別の事を考える愚を冒した輝二の首をデビモンの巨大な右手が捕らえた。

「しまった!」

声に出すが、時は既に遅かった。

デビモンの右手が輝二の首を捕らえると片手で持ち上げられ、そのまま壁に叩きつけられた。

「ぐはぁっ」

背中を石質の壁に叩きつけられた衝撃に輝二は肺の中の空気を一気に吐き出す。

デビモンの輝二の首を絞める力が強くなり、輝二の顔は赤を通り越し、真っ青になっていき、ジタバタともがく力を奪われる。

ポコモン達が自分を呼ぶ声を遠くに聞きながら、輝二は意識が遠のくのを感じた。