二人だけの戦争・7

救難信号をキャッチした基地から通信が入ってから、無人島にアスラン本人の救助とアスランの機体を載せる輸送機が通信が入ってから程なくしてやって来た。

 

身元不明の人間であるキラを軍が保護などするはずは無く、無人島にいるのが分かったら、捕虜と同等の扱いを受け監禁されるのが分かっていたので、キラにはコックピットの中に隠れていて貰い、人目がつかない状態になったら迎えに行くという事にした。その際には数時間以上もキラはコックピット内に入っていなくてはならない事も話しておいた。

 

アスランと機体を載せた輸送機が基地に降り立つと、アスランの機体はトレーラーに乗せられて格納庫へと搬送された。平静を装いながらも足早に整備兵達のいる格納庫へと急いだ。

 

格納庫の中に入ると、アスランの機体の前で携帯端末に映った情報をチェックしながら、周りの人間に指示をしている同年代と思われる整備班長を見つけると

「ああ、すまないが、最終調整は俺の方でやるので、コックピットには入らないでくれ、それと整備はいつ頃に終わるかな?」

「う〜ん?」

整備班長と思われる青年は軽くうなりながら腕時計と携帯端末を交互に見ると

「そうですね・・・確実とは言えませんが・・・戦闘をした訳じゃないので、ざっと機体を見ただけですけど、そんなに傷ついてないようなので、どんなに遅くても今日の夜には終わっていると思います」

「ああ、そうか分かった。ありがとう」

整備班長にお礼を言うと、アスランは格納庫を足早に後にした。

 

パイロットの中には少数だが、家族の写真や恋人の写真をお守り代わりに飾っているパイロットもいる為、コックピットの中を覗かれるのを極端に嫌がるパイロットも存在している。整備班長にもなれば年齢は関係なく、そういう事情も知っている筈なので、アスランはコックピットの中を今開けられるのは非常に不味いので、開けられないように手を打っておいた。

 

アスランは輸送機内で聞いておいた。基地内に存在する居住スペースの自分に割り当てられている部屋へと向かった。基地内に存在する無数の居住施設の中でもエリートと呼ばれる赤服の士官にのみ与えられる高級士官専用の居住スペースに存在する一室へとアスランは入ると、入り口から入ってすぐの所に配置移動前に発送しておいた自分の私物の入ったトランクと大き目のボストンバックが置かれおり、一番奥にある部屋の扉を開けると、そこはベットルームらしく、一人で使うには大きめのベットの脇に綺麗に糊付けされた赤い軍服が掛けられていた。正直シャワーを浴びたい所だったが、今はそうも言っていられないので、パイロットスーツを脱ぐと、手早く軍服に着替えて、すぐに部屋から出た。

 

アスランが部屋から出ると、多数の扉が規則正しく並んでいる殺風景な廊下が続いていた。アスランの部屋から見て斜め前の部屋の扉が開いており、その傍らにはカートが止めてあった。もしやと思い中を覗き込むと、そこにはアスランが目的としていたものがあった。アスランは手早く透明なビニール詰めにされているものの中身をビニール越しに確認すると、ビニール詰めされた物を二つ手に取って素早く自室へと戻った。アスランが自室の扉を閉じるのと同時に、カートの止まっていた脇にある扉から誰かが出てきたようだった。その気配はカートの持ち主だと思われるが、扉に張り付いて相手の気配を探っていると、カートをひく音が遠ざかっていくのが分かった。

 

扉を開けて、そこにカートが無いのを確認して

「ふぅ~~

アスランは盛大に息を吐いた。

 

それから両手で抱きしめるように持っていた手の中の物を確認して、透明なビニールで覆われている洗浄から帰って来たばかりの綺麗に糊付けされている赤服を見て、このまま持ち歩くのは、さすがに不味いと思ったので、私物のトランクの脇に置いてあるボストンバックを開けると、その中身を全部取り出し空にすると、ビニール詰めされた物を中に入れて、ボストンバックを持って、今度こそ部屋を後にして、自分の機体が置かれている格納庫へと向かう。

 

先ほど後にした格納庫へと再び顔を出すと、今度はほとんどの整備兵の姿がなく、先ほど話した整備班長だけが携帯端末を弄っている様子だった。アスランにとっては願っても無い状態だったが、念のために整備班長に声をかけておく

「これはいったい・・・先ほどまであれだけいた整備兵の姿がもうほとんどいないようだが・・・」

「ああ、アスランさんでしたか、いや色々と調べたんですけど、潮風に数日当たったってだけで、交換しないといけない箇所が数箇所あっただけでなんで、機体の損傷はさっきも言った通り大した事無いんですよ、ただ・・・この機体って特殊な機体なんで、ここに変えの部品が無いんですよ。だから今日できる事って言ったら、交換する部品を発注かけるだけなんです。だから他のメンバーには次の現場に行って貰って、私も発注作業が終わったら次の現場に行く予定です。」

答える整備班長から少し離れた場所には基地内走行用の二人乗りのカートが止めてあった。

 

「それよりアスランさんはどうしたんですか?」

「ああ、ちょっとコックピットに忘れ物をしたんだ。邪魔になるような事はしないから気にしないでくれ」

「分かりました。じゃあ私は次の現場に行くので、ここにあるものはくれぐれもいじらないで下さいね」

そう答えると、整備班長は携帯端末の電源を切って小脇に抱え込み、カートに乗り込みエンジンを掛ける。

「ああ、分かった。整備の方よろしく頼む」

走り出したカートに向かって声をかけると、肩越しに振り返りながら親指を立てて答える整備班長のカートは搬入口から出て、すぐに右に曲がり見えなくなった。

 

取り残されたアスランは、ざっと周りを見渡すが、確かに今のこの格納庫内にはアスランだけしかいないようだった。

すぐさまアスランはリフトを起動させて、機体のコックピットの前に行き、外部からコックピットを開ける。

「キラ、待たせたな」

「思ったより早かったね。もっと時間が掛かるかと思ってたよ」

「予想外に上手く事が運んだからな、じゃあ、キラ、さすがにその格好で基地内をウロウロするのは不味いから、これに着替えてくれ」

そう言ってアスランは持ってきたボストンバックから袋を取り出し、キラに差し出し

「こっちを先に着て、その上から赤い服を着てくれ」

中身の説明を簡単にする。

 

紙袋を受け取ったキラとアスランの間で微妙な間が訪れる。

ややあって、キラが頬を染めながら気まずそうに

「あ、アスラン・・・あのいつまでこっち見てるの?・・・」

「あっ!・・・す、すまん」

キラにつられて頬を染めるアスランは慌てて背を向けた。幾ら体を重ねた中とは言え、さすがにこれは気まずかった。

 

後ろでガサガサと袋から中身が取り出されて、中身を取り出しているであろう音がするが、すぐにそれは無音になった。アスランは何があったのかと気になるが、さすがに振り向く訳にもいかず、顔は前に向けているが、瞳だけは目の右端へとあったが、当然、後ろは見れず、どうするどうすると一人で悶々としていると

「あ、アスラン・・・」

何とも複雑な気持ちで何か言いにくそうな感情が篭った声がかけられたので振り返ると

 

そこにはザフト軍の水色のインナーの上下を着て、その上から赤服の上着の前を止めてない状態で羽織っていた。そしてキラの手にはピンク色の布着れが握られていた。

「「・・・・・・・・・・・」」

二人の間に訪れる気まずい沈黙、それがピンクのミニスカートだと、分かるまでアスランには時間が掛かった。

「ご、ごごごご、ごめんっ!・・・あっ、あっ、あの・・・つ、つい急いでいたから・・・そ、その・・・しょ、しょうがない・・から・・・き、着て・・くれないか?」

 

バコンッ!

 

「ぐおっ!」

普段だったら余裕で避けられるものだったが、さすがに今は事態が事態だけに避けるも何も無かった。キラに殴られて吹き飛びリフトから落ちそうになり、慌てて手すりを掴んで、何とか落下を免れる。

「ア、アスラン・・き、き、君は何を考えてるんだよっ!?」

頬を染めながら、右手の拳を振りぬいた状態で絶叫するキラ

「キ、キラ・・ち、違う!・・・お、俺は・・・や、ややましい意味で言ったんじゃないっ!・・・し、しし、仕方なくだな・・・」

お互いに事態が事態だけにしどろもどろのやり取りをする二人だが、不意に誰かが来るのをアスランが察して、キラのいるコックピットに飛び込み慌ててキラの口に手を当てて口を塞ぐ

「シッ!誰か来た」

右手はキラの口に左手は自分の口の前で人差し指を立てる。

 

遥か下から誰かの声が聞こえてくる。

「あら?アスランさん?部屋に戻ったのかな?」

慌ててアスランはコックピットから出て、リフトの上から下を見ると、そこには整備班長がいた。

「あ、いたいた。まだ部屋に戻ってなかったんですか?」

「い、いや、ちょっと・・・コックピットの中に忘れたと思っていたんだが・・それが無くてね・・・もしかしたら部屋なのかもって思えてきたから、もう少し探して見つからないようだったら、部屋に戻るよ。そっちはどうしたんだ?」

「俺も忘れ物ですよ。これこれ・・大事な大事な愛用なんですよ」

そう言って手の中にある高そうペンをこちらに見えるように掲げる。

「ああ、分かった。もう少し探して駄目なようなら部屋をもう一回探してみる事にするよ」

整備班長がペンを持って、出て行くのを見届けながらその背に声を掛ける。相手は手を上げてそれに応える。

 

今度こそ誰もいなくなったのを確認してから、コックピットのキラの様子を見ると、キラは自分の手の中にあるピンクのスカートを頬を染めながら見つめていたが、すぐに自分を見ているアスランに気付いて

「わ、分かったからっ!・・・・こっち見ないでっ!・・・・・・着るから

アスランがこっちを向いてないのを確認しながら、キラはミニスカートを腰の高さまで引き上げてボタンを留める。最大のネックだと思ったウエストだが、意外とピッタリだったのに自分の内面と葛藤をしながら、袋の中に入っていた。黒い長い布が何なのか分からず手に取って、僅かにキョトンとなるが、自分の身につけたミニスカートから先に伸びる足と手の中にあるものを交互に見て、すぐに何か分かった。

「っ!・・・」

今度は頬だけではなく耳まで真っ赤に染めながら、アスランを見ると

「こっ!こっち見ないでよっ!」

「あっ・・ああ・・・す、すまない」

アスランが顔だけ動かして、肩越しにこちらを伺っていたらしく、目が合ってしまう。

 

静かに小さくため息を吐きながらニーソックスに足を通すと、するりと中へと入っていき、両足を通し終わると、最後に渡された白いブーツを履く。

 

赤い軍服の下にミニスカートを纏い、そこからすらりと伸びた細い足を覆う黒いニーソックス、赤服の上からウエストを締める白いベルト、全てがキラのサイズとピッタリだった。耳まで真っ赤にしながらそれを纏うキラを上から下まで見ていたら、再びキラに殴られた。

「もう!いい加減にしてよっ!」

 

その日、基地内をアスランが改造軍服を着たボーイッシュな女の子を連れて歩いている姿を何人もの兵士が目撃した。

 

あとがき・はい、この連載にしては長かったです。理由としましては色々とありまして、はいここからは腐っている発言丸出しで言わせて貰います。キラに女装させたかったんです!はいもう腐女子認定は受けていますので!はい、そして今回、月2で更新できました(拍手)やっぱり出来れば月2更新をやりたいですね。特にこの話はまだまだ書きたい描写が沢山あるので、書いているだけの話なので、そしてやっぱり長いブランクを開けると、文章が陳腐になった気がしてなりませんね・・・では、まだまだ続く連載ですが、宜しくお願いします。