二人だけの戦争・6
空になった水筒を岩肌から流れ落ちている水流の中に差し入れると、先ほどまで空だった中身が満たされ重くなっていくのが分かる。中身が充分に満たされたのを重さで確認すると、キラはキャップを閉めて、岩肌に背を向ける。
無人島でアスランと出会って二人の共同生活が始まり、二日が経った。
最初の一日目は飲み水の確保をする為に、二人で島の中を歩き回った所、飲み水として使える水が流れている小さな滝を見つけた。
これで飲み水の方の問題は解決した。食料の方はアスランの持っている携帯食料に頼るという形になったが、二人で食べたとしても一週間分は充分に賄える量があり、島の位置をモビルスーツに搭載されているGPS機能を使った所、連合軍の勢力圏に近い場所だが、一応はザフト軍の勢力圏内という事も分かり、輸送機が墜落する前に機体をパージしている事と、連合軍の戦闘機と交戦に入った事を現在位置と共に基地に無線で知らせていた事から、アスランの乗っていた輸送機が撃墜された事をザフト軍が把握している可能性が高いと考え、アスランがキラに殴られてから程なくして、モビルスーツから救難用の信号を発信させたので、救助はそう遠くない内に来る可能性が高いという結論に至り、何日もサバイバル生活をする覚悟をしないで済んだ為、二人の表情には自然と余裕があった。
「水汲んできたよ」
「あ、ああ・・・すまない」
島にあった洞窟の中で焚き火の前に座り火の番をしていたアスランが帰って来たキラに答えると、視線を元に戻す。アスランは目の前の炎を凝視していて、心がここに無い事が明らかだった。
キラに殴られてから言われた事がアスランの頭の中で繰り返し囁いている。
(アスランは何の為に戦うの?勲章の為?撃たれた家族や友達の復讐の為?)
キラにそう訊ねられて答えられないで黙るしかない自分
無人島での暮らしなので水汲みと食事の時以外は軍隊での生活に比べて、やる事、やらなくてはならない事が非常に少なく、一日の半分以上を思案にあてたとしても、誰も文句を言わない、そんな環境で思索に耽って、もうまる二日が過ぎたが答えが出無い・・・
(俺の戦う意味ってなんだろう?)
今まで血のバレンタインで母親を殺されてから、地球軍と戦う事に疑問を持つ事は無かった。いやどこかで持たないようにしてきたのかもしれない、戦う意味について今までじっくり考える暇もなかった。しかしキラに言われてから、戦う意味についての疑問が頭から離れない
「スラン・・・アスラン」
キラに呼びかけられているのに気付くのが遅れた。
「あ、ああ、キラ・・どうした?」
「もう食事の時間だけど、どうする?」
「えっ!・・・もうそんな時間か?」
言われて洞窟の外を見ると、さっきまで高い所にあったと思っていた太陽が、もう夕日として水平線に触れるか触れないかの所まで落ちているのが目に入った。
どうやら自分は随分と長い時間、自分だけの世界に入っていたらしい、キラに対して気不味さから苦笑を返すと、キットから携帯食料を取り出すキラの隣に行き、食事の準備を手伝う。
焚き火を挟んで自分の向かい側に座るキラを見つめていると、キラが視線に気付く
「ん?どうしたのアスラン?」
「い・・いや・・」
慌てて目を逸らす。そんなやり取りが数回繰り返されると
アスランの様子が余りにおかしいと思い
「ねえ、アスラン・・・本当にどうしたの?」
アスランの隣に腰を下ろし、アスランの顔を覗き込みながら訊ねるキラに
「い・・いや・・・な、なんでもない」
赤面した顔を慌てて背けるアスラン、自分がこんなに悩んでいるのは、キラが言った言葉が原因とは、すぐには言い出せず、かといってこのままこのモヤモヤとした思いを抱えているのは正直耐えられないので、何とか気を落ち着かせて視線をキラに戻す。
頬を僅かに赤くして自分の顔を見るアスランに
「ん?どうかした?」
キラが首をかしげる。
「い、いや・・・ただ、キラが言っていた言葉が・・・・気になって」
「僕が言った言葉?」
「あ、ああ・・・キラに言われて・・・戦う理由とか意味とか・・・そういうのを考えたんだけど・・・どうしても俺には答えが見いだせなくて・・・」
しどろもどろになりながらも何とか自分がなんで悩んでいるのかを打ち明けると、クスリと微笑むのが聞こえたので、憮然としながらもキラを見てみると、やはり顔は笑んでいた。
「なっ!・・・何がおかしいんだ!?」
自分の気も知らないで、頑張って打ち明けたのを笑われた気がして、荒い語尾になる。
「ごめん・・・アスランは本当に真面目なんだね。不器用過ぎる位に不器用に悩んで・・なんだか今のアスラン・・・凄く苦しそうだよ。そんなになるまで悩んで」
キラとアスラン、暫くの間、二人の視線が重なるが、その間を動かしたのはキラの方だった。
「参考になるか分からないけど・・僕は戦争なんてしないで世界を、ナチュラルもコーディネーターも共に笑っていられる世界を作りたいって思ってるんだ。・・・だけど、今のままだったらナチュラルもコーディネーターも戦争を続けるだけで、いずれ世界が滅んで戦争が終わるって事はあったとしても、何も変わらない気がするんだ・・・だから変えなくちゃいけない・・・その為に僕は戦ってる・・・少しは・・・参考になったかな?」
キラに言われた事があまりに突拍子も無かったのでアスランは戸惑うしかなかった。
「えっ・・・あ、ああ」
何とか返事をするが、アスランの頭の中にある疑問が晴れたかというと全く晴れてはいなかった。むしろより悩みが深くなった感じさえある。
しかし、キラの言うナチュラルもコーディネーターも共に笑っていられる世界っというのが引っかかった。そんな事が出きるはずが、っと頭の中で言っている自分がいる。だからと言って、無下に切り捨てられる言葉ではなかった。正直に言うなら自分も戦争なんてしたくない。だからこそキラの言う戦争なんてしないでナチュラル、コーディネーター共に笑っていられる。そんな世界があったらと思う自分がいる。
「ありがとう・・・キラ」
なんだか吹っ切れた気がした。幾分すっきりした顔でアスランはキラにお礼を言うと、キラも満足そうに微笑んだ。
それから無人島での共同生活で色々とあったが、三日後にアスランのモビルスーツの通信機に友軍からの通信が入った。
後書き・はい、どうも、長々とお待たせして、すいません、長いスランプとずっと文を書くという事をしていなかったので、色々と問題がありありな文になってしまいましたが、とりあえず六話目を書き上げることが出来ました(自画自賛の拍手)ここで前から物語のあらすじは決まっていたのですが、タイトルと話がかみ合わなくなって着そうなので、そうなりそうな流れの場所が自分の頭の中とネタ帳で大まかな目処は立っていますが、タイトルを一新する意味もあり、今の連載を第一部とし、次の章に入るときはタイトルを変更して第二部で分けようと思います。