二人だけの戦争・13

「キラ!大丈夫か?」

「僕は平気だけど、アスランこそ大丈夫?」

自分の腕の中にいるキラの無事を確認すると、(キラは座席に座るアスランの腰に手を回しているような格好)アスランは墜落した機体のコックピット内で色々と操作パネルと格闘するが、どうやらこの機体が受けたダメージは致命的なものだったようで、機体を破棄するしかない事が分かると

「チッ・・・」

アスランは舌打ちをすると、今度は持ってきたショルダーバックから手の平に治まる端末を取り出して、端末をちょっと操作して画面と睨めっこを始めてしまった。

 

アスランの浮かない様子を見て、キラも大体状況を把握したのか

「目的地まで、ここからどれ位離れてるの?」

「直線距離で10キロ・・・普通に直線でいければの話だけどな・・・おそらくは15キロ位は覚悟した方が良い・・・それに」

っと言ってアスランがコックピットの座席に座りながら一点を凝視している先を見ると、そこには機体の生きているカメラが外の様子を・・・外が吹雪いている様子が映し出されていた。

 

数分後に

「じゃあ、キラ開けるぞ」

ヘルメットに内蔵されている無線機の周波数の確認も兼ねて、小声で囁くように言うと、キラにも聞こえたらしく、キラが首を縦に振るのを確認して、アスランはコックピットの扉を開けた。

 

ビューーー

 

っという風の音と共に雪が風に流されてアスランとキラの体に叩きつけられて、身につけているコートが風に激しくなびく。

 

気温がかなり低く雪が降ってばかりいる地に行く事は前もって分かっていたので、万一の為に寒冷地仕様のパイロットスーツを用意しておいた。このパイロットスーツは保温性も断熱性も高いので雪が降る中外に出たからと言って、すぐに凍死する心配も体温が奪われる事も無い、だが、いつまでもここにいる訳にも行かない。ザフト軍の追撃部隊や連合軍の部隊が来ないとは限らない、ましてやアスランとキラが乗ってきた機体には発信機がついている為、大体の所在は把握されている筈である。

 

アスランとキラの乗る機体は山の中腹に墜落したらしく、決して急ではないが、かといって緩やかでもない斜面の真っ只中に投げ出される形になった。

 

アスランとキラは端末上に映し出される衛生地図を見て、一旦、この山を下山するという事はコックピット内で決めた事だが、どの方向へ下山しようかというのは、コックピット内から見るだけでは分からなかった。だが、こう視界が悪いと外に出ても対して変わらなかった。この状況では2mも離れれば最悪の場合、相手を見失うのではっという状態だった。

 

「キラ、ちょっと俺のそばへ」

言われてアスランのそばに行くと、バックから一本のロープを取り出した所だった。それをアスランは自分の腰に解けないようにしっかり縛りつけると、今度は縛られてない方の端をキラの方に渡した。すぐにキラはアスランの意図を理解して、自分の腰にもロープを縛り付ける。

「この視界の状態だと、幾ら無線で連絡が取れても、はぐれたらアウトだ」

「そうだね。じゃあ、行こうか」

アスランが親指を立ててキラに答えると、立てていた親指を握り込むと、今度は人差し指を一定の方へ刺して歩き出したので、キラもそれに習った。

 

アスランは少し焦っていた。この吹雪によってザフト軍の追撃は免れるかもしれないが、やはり機体からは離れられるだけ離れておく方が賢明だと思ったからだ。幸いこの吹雪で足跡は消えているだろうが、やはり、軍に対しての後ろめたさもあり、気ばかり急いている自分がいた。

 

それから吹雪の中という事もあるが、コーディネーターのアスランでも少し疲れを感じる距離を歩いた。視界を遮る吹雪とヘルメットで覆われている為、お互いに顔は良く見えないが自分の後ろを歩くキラは文句一つ言わなかった。アスランの気持ちの中にこれ位離れれば大丈夫だろうという思いが生じて、少し気持ちに余裕が生まれた頃にアスランは休憩する場所を探してみたが、どうも適当な場所が見つからない、立ち止まって周囲を見回している自分を見て、アスランに追いついて隣に立つキラからヘルメットに内臓されている無線機からキラの声が聞こえた。

「どうしたの?・・・アスラン」

やはり、キラの声には疲れが見えた。途切れた会話の合間に激しい息遣いが聞こえる。

 「どこか良い場所があったら休もう」

 「うん、分かった」

隠してはいるが、キラの声に安堵が混じっているのが分かった。

 

幸いすぐに休憩するのにぴったりの洞窟を見つける事が出来た。下山しながらでは死角になって気付かなかったが、アスランが立ち止まって見渡していた場所のすぐソバにあったのだ。

「ここでちょっと休憩しよう、機体からは充分に離れた。」

キラのヘルメットが縦に揺れ頷いたのを確認してから、再びアスランは先頭に立ち洞窟の中に入って行く、幸い洞窟は奥に行くとカーブしており、入り口は吹雪が吹いている方向を向いている為、入り口には腰の高さ程度の雪が積もっているが、奥に行くと直角に曲がっていて、中までは雪が入ってくる心配は無く、二人が休むには適度な広さの空間があった。

 

アスランはコートについている僅かな雪を払うとコートのボタンを外す。コートが床に落ちると同時に腰を下ろしてヘルメットを脱ぐと

「ふぅ〜」

アスランは一息着いた。自分と向かい合うように座り込んだキラの方を見ると、キラもいつの間にかヘルメットを外していた。当然と言えば当然だが、ナチュラルのキラの方が体力的に余裕が無かったらしく両手の平を床につき、足を投げ出すように座っていた。アスランはバックの中からライトを取り出して灯を灯す。

「とりあえず、ここまできたら大丈夫だろうから、日が昇るまではここで過ごそう、山を下りて来てはいる筈だが、下手に動くと迷う可能性だって充分あるし、この吹雪じゃ方向を見失いかねない」

「分かった」

頷いたキラは腰のロープを解き始めた。それを見てアスランもロープを解き、キラの様子を見る。

「疲れたか?キラ」

「うん・・・さすがにこれだけ吹雪の中を歩いたからね」

「すまない・・・機体を撃墜される事さえなければ・・・」

脱走を計画したアスランにとって連合軍との遭遇は完全にイレギュラーな事だった。キラをこんなに歩かせる予定ではなかったし、僅か三日で立てた計画だったから、穴だらけになるのはしょうがないといえば、それまでだが、それでも自分の不甲斐無さからキラに申し訳ない気持ちになって、顔を俯けてしまった。

 

クスっという笑みの音と共に

「そんなに気にしないで良いよ」

顔を上げると、優しい瞳がこちらを見ていたが、すぐにキラの顔に陰りが浮かぶ

「僕の方こそ・・・今更だけど、アスランを付き合わせる形になって・・・ごめん」

「な、何を言ってるんだ!・・・俺はキラについて行きたいって思ったから来ただけだ!キラこそ・・・下らない事を気にするなっ!」

つい声に熱が篭ってしまった。アスランの声に慌てて顔を上げたキラは目を大きく開いて驚いた様子だったが、すぐにアスランの好きな優しい笑みを浮かべると

「ありがとう」

っとだけ静かに心に響く声で答えてくれた。

 

少しの沈黙が二人を決して居心地が悪い訳ではなく、会話が続かないというだけだったが、アスランが思い出したかのように

「あっ!キラ・・そういえば・・寒くないか?」

「えっ・・・」

アスランはショルダーバックの中をごそごそとあさり出す。

何か握り拳よりちょっと大きな白い塊を取り出すと、それを二人の間に置いて火をつけた。ほんのりとした明かりが薄暗い洞窟内に広がり、パイロットスーツに包まれているので体の方は分からないが、顔に当たる冷たい空気が少し暖かくなった気がした。

「一応明かりとしての役割と空間の温度を暖める効果がある」

どういう原理かは分からないが、アスランが説明をしてくれた。

 

それから二人の間に優しい時間が流れ始めた。

 

あとがき・はい、今回はこのお話の割には長くなってしまいましたので、ここで区切ります。種の方は第一部でキラが赤いパイロットスーツを着た時から、ずっとずっともう一度赤いパイロットスーツをキラに着せたいと妄想していたりしました。はい次回のネタバレをしない内に今回はここで終わります。