剣の主と剣の行方・3

 

 ドウセツから剣を受け取ったリオンは、セインガルド王国にある多数の村々を周り、モンスターや盗賊に怯えている村に一晩の宿を世話になる代わりに用心棒の真似事をして、旅暮らしをしていた。そんなリオンの噂は人伝に伝わり、王都ダリルシェイドの人達と王の耳にも入っていた。

曰く、名前を名乗らない、謎の凄腕の剣士がいる。若くて美形の少年剣士、人から人に伝わっていく上で、噂として尾びれがついたものもあるが、それでも共通しているのは、凄腕の若い剣士という事。

 

 リオンが王都についた時、王都はお祭りの時期でもないのに、妙に賑やかで、人々がお祭りの準備をしている感じだった。かつて住んでいた街ゆえに、リオンはこの時期に祭り等は無かったと記憶しているが、この騒ぎはなんだと思っていると、自分の立っている場所のすぐ脇のレンガ作りの壁に貼られた3枚の紙に目を止めた。

 

「英雄スタン!!王都ダリルシェイド騎士団団長に任命される」

「ファンダリアとセインガルドの同盟が調印される。ファンダリア王、ダリルシェイドに正式訪問!」

 

「フッ・・・あの田舎者も出世したな・・・」

マントについたフードを目深に被り、誰にともなく呟くリオン・・・

 

 特別いい思い出など無い街だが、柄にもなく感慨にふけりながら、かつて自分が暮らしていた屋敷のそばまで来ると、どうせ寂れていると思っていたが、逆にその屋敷は寂れる所か、キチンと手入れがされており、誰かが定期的に管理しているのが分かった。

 

(一体誰が・・・?)

 

と思い考えていると、屋敷の玄関の両開きの扉が開いた。

 

(!!!!!)

中から出てきた人物を見て、二つの意味で驚いた。

「ルーティさん、あの・・・本当に良いのですか?」

「良いの!良いの!どうせこんな屋敷取っといても誰も使わないんだから!お金に変えられる内に変えておくのよ。痛み出したら価値が下がっちゃうじゃない・・マリアンこのバカみたいに広い屋敷の管理手伝ってくれてありがとうね。これは気持ちだから受け取って」

レンズハンターの時のままの格好のルーティがメイド姿のマリアンに、お金の入っていると思われる袋を手渡すルーティ。

 

ルーティとマリアン、自分の心の関心を大きく占めている人物二人がそこにいた。リオンは二人の後をこっそりとつける。元盗賊のルーティがいる以上、尾行には最新の注意を払っていたが、それでも相手はルーティ、時折不審に思ったように後ろを振り向き、その度にリオンは物陰に隠れたり、人ごみに紛れたりして、何とかごまかした。二人がしている話から、自分とルーティがヒューゴの実子である事は王とかつての仲間達だけの秘密とされ、ルーティには褒章という名目でヒューゴの屋敷が与えられたが、実質はヒューゴの実子故に財産の相続の権利があっただけの話だった。

 

 ルーティとマリアンの二人は、そのままお城の方に歩いていく事から、このまま城の中に行くのかと思ったが違った。ルーティは門の前で門番の兵士の何か手紙のようなものを渡すと、マリアンを連れて、また街の中を歩き出した。心なしかルーティとマリアンの並んで歩く距離が近づき、何かをマリアンに呟き、マリアンの体がビクっと跳ねたが、すぐにマリアンの左手の二の腕にルーティは自分の右手を絡ませると、また何かを呟いて安心させているように思えた。それから二人が人気のない路地を歩くのを尾行していて、リオンは気付いた。

 

(まさか!)

 

 リオンが気付いた時、後ろから聞きなれた声がした。

「おっと、そこまでだ」

振り返ったら、そこには・・・

(スタン!)

 

 リオンのすぐ後ろには、兵士を連れたスタンが立っていた。そして、ルーティ達の方を振り向くと、二人はいつの間にか兵士たちに守られるように囲まれていた。マリアンを兵士たちの後ろに追いやると、ルーティは兵士からショートソードを受け取ると、兵士たちより1歩前に出た。

「なんのつもりか知らないけど、私を尾行しようなんて100年早いのよ!」

剣をリオンに向かって突き立てて、旅をしていた頃から変わらない威勢の良さで言い放つ

 

「さあ、どうしてルーティとマリアンを尾行したりした!オベロン社の残党か?場合によっては城まで来てもらうぞ」

マントについているフードを目深に被っている相手を、スタンは不審に思いながら、スタンは相手の様子を伺った。かなりの使い手であるというのを、幾多の死線をくぐり抜けたものだけに備わる感がスタンに教えていた。

 

リオンとしては、出会ったばかりの頃ならともかくとして、今のスタンが自分と同じ位強いのは、リオンも良く分かっていた。それにルーティも隙を見せたら何をされるか分からない。この二人を同時に相手にするのは正直避けたい、それに周りの兵士も新米兵ではなく、動きを見る限りベテランだ。おそらくスタンとルーティの足を引っ張るようなヘマをする事はまずないだろう。おそらくまともに戦えば、いつかこのフードが脱げて自分の正体がばれてしまうのは明白だった。

冷静に状況を分析した結果、この状況を打破する答えは簡単だった。リオンは迷わず、ルーティの方に襲いかかった。ソーディアンの無い今、単純な戦闘能力がものを言うのなら、スタンより、ルーティの方が劣るのは目に見えており、挟み撃ちにされる形にはなったが、戦力の低い方を先に叩く、これを実践したまでだった。

 

 実の姉に剣を向けるのは、これで二度目・・ただ一度目とは違い、今回は倒すのが目的でもなく、ただ自分が逃げるのが目的だった。リオンはルーティに向かって、剣を鞘から抜く勢いを利用し、左下から右上に斜めに斬り上げる。リオンが十分に手加減した攻撃だっただけに、ルーティは難なくショートソードで受け流し、回転し反撃に移ろうとしたのだろうが、リオンはルーティが回転した故に生まれた隙を見逃さなかった。

 

「ルーティ!!」

スタンの声が響く

 

リオンは一瞬にしてルーティとの間合いを詰め、ルーティの背中に貼り付き、左手でルーティの口を塞ぐと、右手に持った剣をルーティの首筋に押し付ける。

 

 

「動くなっ、剣を捨てろ」

ルーティの耳元に囁く

(この声は・・・)

囁かれた声にルーティは一瞬思考を麻痺させるが

「捨てろ」

言われて、ショートソードを手放す。石畳の上にルーティが持っていたショートソードが落ち、リオンはルーティが持っていたショートソードを手の届かない場所へ蹴り飛ばす。

「全員、武器を捨てろ」

声を荒立てる事なく、淡々と述べるリオンに、スタンと周りの兵士が躊躇しているのを見て

「捨てろ」

短い命令口調を口にしながら、剣をルーティの首筋に近づける。

「ま、待て、みんな剣を捨てろ」

スタンが剣を捨て、周りの兵士たちも僅かに遅れたが、剣を足元に捨てた。

「全員、自分の足元にある剣を蹴って遠くにやれ」

全員の剣を捨てはしたが、簡単に拾える位置に置いてあるのを見て、僅かに苛立ちながら更に命令を下す。スタンは無言で自分の足元にあった剣を脇に蹴り飛ばし、周りの兵士たちもそれに習った。

 

リオンはルーティを人質に取る形でじりじりとスタンがいる方とは、逆側に移動し、兵士達に守られるように立っているマリアンを見て、その姿に見入ってしまった。不安そうに自分の手の中にいるルーティを見るマリアン・・・

そんなリオンの僅かな隙をルーティが見逃すはずもなく、ルーティが自分の口を抑えているリオンの左手に噛み付こうとしたが、一瞬早く意図を読まれ、両方の頬を強めの力で押さえつけられた。

「んんっ、ん〜」

(クソッ〜、私がこんな人質に取られるなんて、情けなすぎる)

「おとなしくしてろと言ったろ、全く」

人質に取られてはいるが、先程から相手からの敵意が全く感じられず、正直、先程から聞こえてくる相手の声は、もう二度と聞く事のないと思っていた声だった。そんな相手にルーティは困惑しっぱなしだった。

 

リオンは自分の手を噛もうとして、僅かに身をよじったルーティの腹部にサーベルの持ち手で当身を加えた。

 

ドスンっというお腹に響く衝撃と共に

「うっ」

肺から息を一気に吐き出し、ルーティは意識を失う。ぐったりとして倒れそうになるルーティを抱きとめると、リオンはすぐに剣をしまい、密着した間合いで使いやすい短剣に持ち替え、意識を失ったルーティを再び抱きかかえ、スタン達から距離を十分に取ったと判断すると、その場にルーティを丁寧に下ろすと、背を向けて逃げ出した。

 

(今はまだ会う訳にはいかない・・・シャル・・・僕はどんな顔をして、あいつらに会えば良い・・・)

 

リオンは肩ごしに振り返ると、スタンに抱き起こされるルーティの存在が目に入った。

 

あとがき・はい、どうも、リオンはかつての仲間と再会ならずです。うん、どうやって再会させよう(爆)