剣の主と剣の行方・2

 

 スタン達がマリアンがポットで脱出させ、ミクトランを倒すのを、物陰からただ見ていた。リオンは何度飛び出したいという衝撃に駆られたか・・・分からなかった。

 

ミクトランを倒し、神の眼にソーディアンを突きたて、神の眼を安置してある部屋から完全に出て行ったのを確認し、リオンは神の目の前に立ちつくす。

「シャルティエ!リオン君!二人とも無事だったのか?」

「はい、見ての通り、僕たちは無事です」

ディムロスへの受け答えはシャルティエに任せると、ただ静かにシャルティエを構え、神の眼に突き刺した。

「シャル・・・こんな僕に今まで良くついてきてくれた。本当に・・・感謝の言葉もない」

リオンはシャルティエに向かって軽く頭を下げる。

「坊ちゃん・・・その言葉を聞けただけで僕は光栄です。僕がこの時代まで存在した意味は、きっと坊ちゃんと出会う為だったんだ・・・今はそんな気がしてなりません」

「シャル・・・」

シャルティエを無言で見つめるリオン、相手は剣だが、それでも相手が自分を見ている視線を感じる。

「さあ、坊ちゃん行ってください。後は僕たちに任せて、早く皆さんと仲直りをして下さい」

「シャル・・・お前は最後の最後まで世話焼きだな・・・」

どんな時でも自分の世話を焼いてきた相手に苦笑すると、リオンは踵を返し、ソーディアンの突き立つ神の目に背を向けた。

 

スタン達が乗ってきた飛行竜にこっそりと忍び込むと、後は地上に降り立った時のどさくさにまぎれて、飛行竜から抜け出し、王都からも抜け出した。

 

行く宛などなかったリオンだが、どうしてもスタン達以外にもう一度会わなければならない、そんな気がする相手が一人だけいた。そして今リオンはその人物がいる小屋の前に立っていた。

 

小屋の前で倒れていた自分を何も言わず助け、何も言わずに送り出した相手。部屋の中から金槌で金属を打つ音が聞こえる事から相手は家にいるのだろうが、出てくる気配は全くない・・仕方なしにリオンが扉を開けると、扉が会いた音に相手も気付いたらしく、玄関に背を向ける形で作業をしていた相手は肩ごしに顔だけで振り返り来客を確認した。リオンの事を確認すると、相手は無言でしばらくの間リオンを見ていた。ただ黙って自分を見つめる相手にリオンは訝しく思うが、いきなりやってきた自分を特別邪険にしない相手に強く出る事も出来ず、相手の出方を待っていると、不意に相手がリオンから視線を外し、また背を向けて金槌で金属を打つ作業に戻った。

 

「さっさと入れ」

相手の背中からかけられた声にリオンは家の中に入り、扉を閉める。そのままそこで相手の背中を、ずっと見ているが、相手に特に変化はなく、ただ黙って金槌を振るい続けていた。しばらくして作業がようやく区切りがついたのか、相手が立ち上がると

「明日には出来るから、今日はゆっくりしていけ」

表情に余り変化のない相手から、何を考えているのかを読み取る事がリオンにはできなかった。その後、用意された食事を終え、この男に助けられた時に眠っていたベッドで眠りにつくと、次の日の朝に金槌の音にリオンが目を覚ました。手早く身支度を整えると、男がやってきた。その手には鞘に治まった状態の剣が握られていた。

 

男は無言で鞘に治まった剣をリオンに差し出すと、リオンが受け取るまでの時間、男は一切手を引くようすもなく、微動だにしなかった。リオンは男から差し出された剣を、両手で受け取ると

「前のお前が使っていた剣には及ばないかもしれないが、俺の最高傑作の一つだ。持っていけ、若造の門出にただでくれてやる」

男はそれだけ言って、また作業に戻り、金槌で金属を打ち始めた。リオンは自分に背を向ける男を一瞥すると、差し出された剣を鞘から抜いて、刃をじっくりと見ていた。おそらく男はこの剣をシャルティエと同じように作ったのだろうが、片刃のサーベルで剣としての重さや長さ非常にシャルティエに似ており、晶術こそ使えないが、今まで身につけた剣の技を使う分には困りそうもなかった。剣についてそこまで詳しいリオンではないが、この剣が非常に優れた剣なのは剣の波紋を見てひと目で分かった。そんな剣の波紋を見ていると、刃の根元にどこかで見た紋様が掘られているのが目に入った。この紋様はどこかで見た事がある・・・それも自分のすぐ身近で・・・何だったか思い出せずに思案していると、腰に差している短剣が目に入った。慌てて短剣を抜くと、短剣の刃にも同じ紋様が入っていた。

 

「ハッ」

リオンは驚愕の顔で自分に背を向ける男に視線を戻し、その背中に

「刀匠ドウセツ・・・あなただったのか」

男の背中がピクっと僅かに震えると、男は手を止め、顔を起こし

「そんな風に呼ばれた事もあったな、お前さんが持っていた短剣を見て、すぐに分かったよ。俺が作ったもんだって・・・そしてお前さんの最初の態度を見た時、はっきり言って寝てる時は、どっかの貴族のボンボン程度に思ってたが・・・そうじゃなかった・・・一流の剣士が俺の作った武器を使ってる・・・鍛冶屋としちゃこれ以上の喜びはねえ、お前さんは剣士だ。その剣使って、何かやってみな、まだまだ若いお前さんなら出来る事があるはずだ。」

ドウセツはリオンを最後にじっくりと見た後、再び金槌を振るい始めた。

リオンはその背に深々と頭を下げると、二本の剣をベルトに固定すると、その家を後にした。

 

あとがき・1話に出てきた謎の男は実はリオンの短剣を作った名工だったんですね・・・オリジナルキャラですが、リオンを生存させる上で必要なので、登場させてみました。