剣の主と剣の行方
「ぼっちゃん!ぼっちゃん!起きてください!」
聞きなれた声・・・いつも自分を心配して、自分の事だけを考えてくれる存在。おそらく、この世界を探し回っても唯一と言える存在の一つが自分に語りかける。
「んっ・・・」
顔に貼り付く砂の感触と、濡れて重くなった衣類が張り付いた体を起こし、その場に座り込む、どうやら、どこかの砂浜に流れ着いたらしい、そして、傍らを見ると、声の主である地面に突き刺さった剣、シャルティエが目に入る。
「良かった。ぼっちゃん、無事で」
相手の声の様子から安堵しているのが分かる。
「とにかく、ぼっちゃん、体を休められる場所を探しましょう。」
「なんの為にだ?」
力なく答える生きる意味など、無いと断言してきた自分に生きる意味などあるのか?かつての仲間を裏切り、仲間に剣を向け、実の父に捨て駒にされ、実の姉に剣を向けた自分・・・むしろ、あのまま濁流に飲まれて、死んでいた方が楽になれて良かったとさえ本気で思っている。
「なんのって・・・ぼっちゃん、良いんですか?マリアンさんの無事を確かめないで?スタンさんやルーティさんに合わないでも良いんですか?」
マリアンやスタン、そしてルーティの名に、リオンの心の中で何かが動くのが分かる。スタンや実の姉であるルーティには、今更どうしたら良いか分からないが、マリアンにはただ単に会いたい。会って無事を確認したい、そう思う自分がいる。
リオンは座り込んでいた地面から立ち上がり、地面に突き刺さったシャルティエを抜いて鞘に収め、辺を見渡すと、遠目に明かりのついた小屋が目に入った。とりあえず、現在地を確認しないといけないと思い、小屋まで歩く事にしたが、どうやら体には思った以上に体力が残っていなかったらしく、小屋まで後、5,6歩の所でリオンは前のめりに倒れ、意識を失った。
「んっ・・・」
リオンが再び目を覚ました時、今度はベットの上だった。カンカンという金属と金属がぶつかる音に起こされる形になった。体を起こした所、麻色の簡素な寝巻きを着させられていた。そして、いつも話しかけてくるシャルティがそばにないのに気付いた。
この小屋に歩いてくる時は、余り気にもしなかったが、小屋はかなり広く、天井も高いのが分かった。そして小屋にある目に入った窓が全て、全開に開けられているにも関わらず、小屋の中には熱気が篭っていた。そして熱気が発せられる方からは、真っ赤に燃えた炭と、真っ赤に染まった鉄を金槌で打ち付ける男が一人こちらに背を向けていた。そして、その傍らにシャルティエが鞘に入ったまま立てかけられているのが目に入った。
リオンはベットから抜け出し、立ち上がった所で床が軋んだ音で相手に気づかれたらしく、背中がピクっとした後、男はこちらを振り向いた。普段の自分だったら絶対にしない失態だった。見ず知らずの所で丸腰の自分、そして傍らには見ず知らずの男。こちらを見る相手を冷静に分析した所、相手は壮年の男で、顔には立派なヒゲを生やした見るからに頑固な職人という風な男だった。そして、リオンが今まで出会った事の無い不思議な風格のある男だった。相手を只者ではないと見てとったリオンは、冷静に自分とシャルティエまでの距離を測るが、どう見ても相手の方がシャルティエまでの距離は近く、先に剣を取られるのは明らかだった為、シャルティエを取るのは相手を何とかした後にし、何か周りに武器になりそうな物を相手を警戒しながら探していると
「気がついたか」
殺意の全くない声をかけられ、思わずリオンは拍子抜けするが、相手がそのまま自然な動作で傍らに立てかけていたシャルティエを掴み、リオンに鞘ごと放り投げる。拍子抜けした表情のまま、思わず胸元に飛んできたシャルティエをキャッチするリオン。
「お前さん・・・若いのに相当な使い手だな」
シャルティエが全く話しかけてこなかった為、偽物かと疑ったが、手の中の感覚からシャルティエは本物だと確信が持てた。今まで幾度も死線を共にした剣、それ故に手の中に重さから重心、柄の触感全てに違和感が無かった。それに・・・
「ぼっちゃん、あの方は見た所、鍛冶屋みたいです」
小声でシャルティエが話しかけてきた。冷静に状況を判断すれば分かる事だが、シャルティエが本物である確信と相手の正体が分かった事で、リオンは警戒を緩めると
「その剣は、一体なんだ?そんな剣は今まで見たことがない・・幾多の戦いをくぐり抜けているのは分かるが、刃こぼれ一つない剣なんて見た事がないし、研ぎ直された感も無い、・・・まさか伝説の古代の剣をお目にかかる日が来るとはな・・・まあ、いい」
男はそう言うと、再びリオンに背を向けて、しゃがみこみ金槌を打ち出すのかと思ったら、傍らに置いてあった何かを拾い、立ち上がると、リオンの前に鞘に入った短剣を差し出した。
「こいつの手入れも終わっている。持っていけ」
男はリオンに鞘に入った短剣を差し出した。それはリオンが使っていたシャルティエと同じく、幾多の死線を共にしたもう一本の剣だった。思わず受け取ってしまったが、リオンの顔は未だに拍子抜けした状態で、この男は出会って僅かな時間だが、リオンとしてはペースを崩されたままだった。
「お前さんは一晩眠りっぱなしだったが、もう大丈夫そうだな、着ていた服はそこに置いてある。行くべき場所があるなら勝手に行け、俺は仕事があるから邪魔だけはするなよ」
そういうなり、男は再び元の場所に戻って、真っ赤に染まった鉄を金槌で打ち始めた。まるでその鉄を打つ行為以外に興味がないと言わんばかりの態度だった。リオンは手早く、自分の服に着替え、シャルティエと愛用の短剣を腰のベルトに刺すと、相手の背中に無言で頭を下げ、小屋を出た。
「ぼっちゃん、これからどこへ?」
「シャル、答えるまでもない事だ」
答えるリオンの視線は空高くに鎮座するダイクロトフを指していた。
あとがき・はい、新連載はテイルズオブデスティニーからリオン×ルーティ話を連載させて頂こうと思います。今回は久しぶりの更新&随分と年月の経ってしまった作品ですが、私まは今でも好きなんです!←ここ強調。そう今でも好きなんです!(はい大事な事なので二度言いました)